――――――…『青薔薇連合会』にいるルレイア・ティシェリーが、帝都に「ブラック・カフェ」なる喫茶店を出店するという情報は。

ここ、帝国自警団にも伝わっていた。

聞くところによると、メニューの全てが真っ黒で。

しかも着色料不使用で、全て天然の素材だけを使っているらしい。

私にとっては心底どうでも良いし、本当にそんな店が売れるのだろうか、と思っていたが。

「例の、ルレイア・ティシェリーの黒い喫茶店…。物凄く流行ってるみたいだね」

スマートフォンを手にしたアンブロが、そう教えてくれた。

…そうなんだ。

「そのお店って、どんな感じなの?」

「写真がたくさん載ってるよ。ほら」

アンブロが、スマートフォンの画面を見せてくれた。

そこには、黒で統一されたシックな店内の内装や。

本当に見事に真っ黒な飲み物や、食べ物の写真がたくさん載っていた。

…凄く気持ち悪いように見えるんだけど…。こんなものが流行ってるんだ。

私がアシスファルト帝国にいる間に、ルティス帝国民の趣味が変わってしまったとしか思えない。

「何味なんだろうね?これ…。イカスミ?黒ごま?」

「いや、どうも…Twittersを見る限り、どれも見た目が黒いだけで、食べてみると普通の味らしい」

「…ふーん…」

「しかも、原材料のほとんどをシェルドニア王国から仕入れてるらしい」

シェルドニア王国?

…それは聞き捨てならないね。

「何故か、詳しい原材料の名前は伏せられたままで…。SNSでも謎に包まれてるんだ」

「…言えないようなことをしてるんだよ、きっと」

あのルレイア・ティシェリーのことだ。

またしても、シェルドニア王国の人々を脅し。

破格の値段で原材料を輸入し、利益を貪っているんだろう。

そういう後ろめたいことがあるから、詳しい原材料は伏せられているんだろう。

そうに違いない。

「あの男は…何処まで…」

もう何度も思ったことを、私は再び思った。

何としても、あの悪鬼を私が止めなくては…。

…すると、そこに。

「ブロテ」

「ちょっと良いか?」

ユナとセルニアの二人が、分厚い書類の束を持ってやって来た。

「二人共…どうかした?」

「ブロテに頼まれてた『調べ物』…。その結果が出たんだ」

「…!」

…ようやく。

ずっと待ち焦がれていた。「調べ物」の結果を。

「ありがとう。…どうだった?」

ユナとセルニアから書類の束を受け取りながら、二人にそう聞いた。

二人はもう、この報告書を読んでるんだろう。

これを読んで、ユナ達がどう思ったのかを聞きたい。

…しかし。

「うん…。そうだね、何て言えば良いのか…」

「…一言で表すのは難しいね」

ユナもセルニアも、この煮えきらない返事。

…意外だった。

満場一致で、「やっぱり酷い男だった」という意見が出るものだと…。

「とにかく読んでみてよ。…アンブロやシャニー、マリアーネも」

「…分かったよ」

私とて、この報告書をずっと待っていたんだ。

すぐにでも読ませてもらうよ。




…そして。

私は報告書を読んで、このような「調べ物」をしてしまったことを、後悔するのだった。