…突然で申し訳ないが、ここで一つ悲報がある。

「スーツケースはどれにします?」

「こっちの黒にしますか?」

「いや、確かそれより大きいスーツケースが、この押し入れに…ほら、あった」

「おっ、じゃあそれに詰めましょうか」

…。

「まず何から入れる?」

「そりゃあ、まずは着替えでしょう。ルルシーの為にオーダーメイドした、俺とお揃いのゴスロリスーツを入れて…」

「ルルシーさんのクローゼットって、なんか良い匂いしますね。男らしい匂いって言うか…いつまでも嗅いでいられる匂い」

「でしょう!?俺もそう思います!」

…。

「洗面用具と、衛生用品…。匠の気遣いで、生理用品も入れておくか。ルルシー先輩がいつ生理になっても良いように」

「大きいスーツケースを選んだだけに、まだ結構スペースありますね。俺のコスメグッズも入れて良いですか?」

「あ、じゃあ僕のエロ本も入れてください。向こうでムラムラしたら困りますからね」

…。

…状況を説明しよう。

今日、一日の仕事を終えて自宅に帰ってきてみたら。

何故か俺のマンションに、ルレイアとルリシヤとルーチェスの三人がいた。

それだけでもビビるのに、何故かこの三人は、俺の部屋の押し入れから、大きなスーツケースを引っ張り出し。

そのスーツケースの中に、俺の服やら何やらを詰め、荷造りしていた。

家主の目の前で、思いっきり家探ししてやがる。

しかも。

ルリシヤは、生理用ナプキンの入ったポーチを。

ルレイアは、自分の化粧道具を。

ルーチェスは、数冊のエロ本(しかもBL本)を、それぞれ俺のスーツケースに詰めていた。

ルリシヤとルレイアはまだ良い。

しかしルーチェス、お前は駄目だ。

いや、生理用品もだいぶふざけてると思うけどな。

そんな匠の気遣いは要らねーよ。絶対使わないから。

つーか、人のスーツケースに入れるな。自分で持ってけ。

それ以前にお前らは、何で俺の部屋に上がり込んで、勝手に荷造りをしてるんだよ?

今日の午後、珍しくルレイア達が俺の執務室に来なかったから、今日は平和だと思っていたが。

今日こいつらが来なかったのは、これのせいなのか?

…あぁ、もう頭が痛い。

「はい、準備終わりました」

「ばっちりですね!」

「これで、いつでも出発出来るな」

…勝手に荷造り終えてるし。

とりあえず、俺がやるべきことは一つだけ。

上着のポケットから、スマートフォンを取り出した。

「…もしもし警察ですか。うちに空き巣が入ったので、すぐ捕まえに来てください」

そこでようやく、ルレイアが俺の帰宅に気がついた。

「ちょ、ルルシー?何してるんですかっ?」

何してるんですか、だと?

それはこっちの台詞だ。

「お前が何をやってんだ。俺の部屋で」

「見ての通り、荷造りですよ。ルルシーは忙しいだろうと思って、俺達が代わりにやってたんです」

成程、俺の為か。

そりゃどうも、気遣いありがとうございますね。

余計なお世話過ぎるから、ちょっと今すぐ出ていってもらって良いか?

「俺を警察に突き出そうなんて、ルルシー酷い!俺が捕まっても良いんですか?」

「…冗談だよ」

本当に警察に連絡した訳じゃない。

ただ、そうすれば少しはビビるかなって思っただけだ。