こいつら、俺の執務室を何だと思ってるんだ?

いつでも遊びに来て良い、公園みたいなものだと思ってるだろ。

公園感覚で訪ねてくるだけならともかく、そこで謎の実験を始めるんじゃない。

挙げ句、こいつら俺に無断で実験を始めたからな。

せめて家主の許可を取ってからにしろ。

これが本当に公園だとしても、勝手に実験をしたら怒られるぞ。

…しかも、顕微鏡を覗くとか、標本箱を眺めるとか、そんな可愛らしい実験ならまだしも。

「ルレイア先輩、そこの粉末ドラゴンズ・ブレスを取ってくれるか」

「はい、これですね」

「あぁ。これをビーカーに入れて、先程のハバネロペーストと…」

見てみろ。聞くにおぞましい実験をしてやがる。

ドラゴン?何だ?その無駄に格好良い材料は。

ちらりとルリシヤの手元を見ると、マグマのような赤い液体が入ったビーカーがあった。

なんか目がチリチリするんだが。気のせいか?

絶対近寄らない方が良い。本能で分かる。

何でそんな危険な実験を、俺の部屋でやるのか。

俺の部屋は実験室じゃないんだぞ。

すぐに出て行け!と叫びたいところだが…あまりにも奴らが危険な実験をしているせいで、声もかけづらい。

何で俺の部屋なのに、俺が遠慮しなければならないのか。

理不尽極まりない。

何を、何の為に作ってるんだか…。

まぁ、大体予想はつく。

あの実験材料を見るに、恐らくまた…ルリシヤの激辛カラーボールの改良版なんだろう。

あのシリーズ、もういい加減にした方が良いと思うんだが。ルリシヤはまだ満足していないらしいな。

…しかし、気になるのはルレイアだ。

ルリシヤが、あの悪趣味な自作カラーボールシリーズを開発するのはいつものことだが。

今回は何故か、そんなルリシヤの隣にルレイアがいる。

普段、ルレイアがルリシヤの実験に付き合うことはないはずだが…。

今日はまた、どういう風の吹き回しだ?

「ドラゴンズ・ブレスカラーボールの方はこれで良いとして…。他のブツは?」

他のブツ…?

ドラゴンズ・ブレスの時点で相当ヤバそうなんだが、他にもあるのか?

「色々考えてあるぞ。やはり母国の素材の方が馴染みがあるだろうと思って、調べてみたんだ」

「匠の気遣いですね!」

「ありがとう。ルレイア先輩に褒められると照れるな」

…何言ってんだ?お前らは。

匠の気遣い…?

「そういう訳で、こっちがシェルドニア王国で最も辛いと言われる、シェルドニアジゴクトウガラシだ」

シェルドニアジゴクトウガラシ…?

「こっちが、シェルドニア王国で最も酸っぱいと言われる、シェルドニアジゴクレモン。こっちがシェルドニア王国で最も甘い、シェルドニアジゴクザラメだ」

…そんな種類が…?

シェルドニア王国の名産物って…俺もそんなに詳しくないけどさ。

本当、突飛な食べ物が多いよな。

ルティス帝国の食文化に慣れていたら、カルチャーショックが半端じゃない。

…で、ルリシヤとルレイアは、そのシェルドニア王国の謎の特産物で、何をたくらん、

「これでカラーボールを作って、ルシードにぶん投げてやりましょうね!」

「ちょっと待て。何考えてんだお前」

これ以上、黙って静観しておけなかった。

ルレイアの相棒兼、お目付け役として。

今のは聞き捨てならなかったぞ、おい。