「寂しくなるわよねぇ。ずっとお隣だったのに。」
「え?引っ越し?誰が?」
「あら昴君から聞いてないの?お隣もうすぐお引越しするのよ。」
「え、なんで急に?」
朱代(あきよ)さん、再婚するんですって。」
朱代は昴の母である。
「朱代さんに庭のお手入れの相談ができなくなっちゃうの寂しいわ〜。まぁおめでたいことだからいいんだけど。」
八重子の呑気な言葉はもう千珠琉の耳には届いていない。
千珠琉はスマートフォンを手に取ると、即座に震える手でメッセージアプリを起動した。

【引っ越すって本当?】
バイト中かもしれないと思いつつ、メッセージを送信した。
予想に反してすぐに“既読”の文字が表示された。
(バイト中じゃなかったんだ。)
ドキドキしながら昴の返信を待つ。昴の口から聞いていない以上、八重子の言葉でも信じられない。もしかしたら昴は残るのかもしれないなど良い方向に考えてみるが、希望はすぐに打ち砕かれた。