「昴、進路の紙出した?」
急いで次の話題を探した。
高2の夏、千珠琉たちの高校では具体的な進路を提出する。
「…千珠琉は?」
質問で返されて、また引っかかりを感じてしまう。
「…出したよ。」
「東京の大学だっけ?」
「うん、M大。昴は?昴も東京行きたいって前は言ってたよね。」
「……うん、俺も東京。」
昴の口から“東京”と聞いて少しホッとした。高校を卒業しても近くにいられる。でも不思議と胸の奥のモヤモヤとしたものは濃くなっているような気がした。

「あ、そういえば行きたい夏フェスがあるんだ。一緒に行こうよ。ヘッドライナーが…」
「ごめん千珠琉。俺夏はほとんどバイトだから、他の人と行って。」
千珠琉が言い終わらないうちに断られてしまった。“ほとんどバイト”ということは、フェスに限らず遊べないということだ。
「………じゃあ行かなぃ…。昴以外に音楽の趣味が合う人いないもん…。」
とっくに空になったアイスの容器をきゅっと握りしめて、千珠琉は目を伏せた。
(去年…来年は一緒にフェス行こうって言ったのは昴なのに。)
「ごめん。」
(謝らなくていいから、そんなにバイトする理由教えてよ。隠してること、教えてよ。)
「ううん、大丈夫。バイト頑張ってね。」
いろいろな負の感情が込み上げてしまい、それだけ言うのが精一杯だった。まだ明るい夏の道が千珠琉の気持ちとは正反対のように感じて、余計に虚しくなった。