「いやだ、あの子ったらそんなこと言ったの?」
「……はい」
まずかった、かな?
何となく、告げ口をするみたいで申し訳ない気持ちになる。
「……そう。今はどうか分からないけど……あの頃は本当に彩月ちゃんの事が大好きだったのよ?
それこそ、結婚したい、なんて言ってて」
「そ、そうなんですか」
確かにあの頃のけんちゃんを思い出すと言いかねないと思った。
一体、過去の私の何がそこまで彼に刺さったんだろう。
昔の自分はとびきり可愛くて、今はとびきり不細工……
ということは……断じて無いと思う。
おばさんは大谷くんの、今の彼女の事を知ってるのかな?
夜な夜なバイクを出していたから当然知ってると思うけど。
聞いても大丈夫かな?
迷いながら思案していると、不意におばさんは席を立ち、「それじゃあ」と口にした。
「おばさんはクラスのお友達が帰ってるかどうか見てくるから、また呼びに戻るわね?」
「……え。ああ、はい……」
ペコッと会釈して、デイルームを出ていくおばさんを見送った。
結局、大谷くんの彼女について質問する事はできなかった。



