ハッとして顔を上げると、不思議そうな目付きで麻衣子が私を見ていた。

 その時。ちょうど教室の前扉から先生が入って来て、それまで一緒にいた麻衣子が自分の席へと戻って行く。

 黒い出席簿で出欠を取り、全員の名前を呼び終わったところで先生が言いにくそうに首の裏を掻いた。

「あー……、今日休んでる大谷の事なんだけどなぁ……。
 ゆうべ事故に遭ったそうだ」


 え……。


 瞬間、背筋を濡れ手で触られたように冷やっとした。事故と聞いて心臓が縮み上がった。

 幾らか教室内もざわついた。

「今朝方お母さんから連絡を貰ってなぁ。幸い、大事には至らなかったから怪我だけで済んだそうだ。
 今は市立病院に入院している。大谷と仲の良い奴は見舞いに行ってやれな。
 病室はお母さんから聞いてあるからまた聞きに来るように……それじゃあ、一時間目、始めるぞー」

 淡々と連絡事項を告げる口振りで授業を始める担任だが、なかなか頭がついていかない。

 事故ってなんで?

 もしかして、バイクで?

 怪我だけでって言うけど、一体どの程度の怪我なんだろう?

 考えれば考えるほど嫌な想像ばかりが広がり、胃の底がズグンと痛くなる。

 不安と心配でたまらなくなり、空っぽになった彼の机を見つめた。