ヘルメットを被ったままなので表情は分からないが、多分彼は舌打ちをついたと思う。

 そして「カノジョのところだよ」とくぐもる声で返答があった。

「つーか、アンタには関係ない」

 まるで捨て台詞のような言葉を吐き捨て、大谷くんはバイクで走り去って行く。

 あんな風にビューって走り抜けて行けたら、さぞかし気持ちいいんだろうな。

 彼の背中を見つめ、さっきの台詞を思い出した。

「アンタじゃないよ」と私は不満をひとりごちる。

「さっちゃんだよ」

 昔は、クラスのみんなが私をそう呼んでいた。

 私からそう呼んで欲しいとあだ名を提供した成果に違いないが、けんちゃんもキラキラとした目を細め、さっちゃんと呼んでくれた。

 何なんだろう、あのキャラ変。

 ああまでして冷たくされるのが、やはり納得いかない。

 私を好きだった過去があったとしても、私を好きじゃない現在(いま)をあそこまで強調する必要が果たしてあるのだろうか?

 喉の奥に何かの塊が詰まったみたいで、モヤモヤする。

 玄関からそぉっと家へと戻り、そのまま浴室へ向かう。シャワーのコックを捻り、少し熱めのお湯を浴びた。