「……いいんだよアイツは。甘やかすとつけ上がるから」
賢ちゃんは眉をしかめ、いつになく厳しい目つきをしていた。前髪から滴る雫が鬱陶しいのか、手でグシャ、と触って掻き上げている。
「そんな言い方、賢ちゃんらしくないよ?」
「とにかく。彩月が気にする事じゃないから」
彼は踵を返し、転がしたままの青い傘を取ると内側にたまった水をパシャ、と捨てている。
「……でも」
私は頼りなく歩く彼女の傘をじっと見つめ、下唇を噛んだ。
こんなの、釈然としない。
キィ、と音が鳴り、賢ちゃんが門扉を開けた。
「とりあえずこのままだと風邪ひくから、着替えたら俺んち来れる?」
「……え?」
「勉強、俺んちのリビングでいいよな?」
「あ……。うん」
さっきまでの時間に圧倒されて、本来の目的が頭から抜け落ちていた。好きな人を相手に、うっかり気の抜けた返事になる。
「すぐ……行くから」
「おう」
鉛を飲み込んだみたいに、憂鬱な気持ちを引きずったまま、私たちは別々の玄関をくぐる。
玄関で靴を脱ぐと、お母さんが「お帰り」と言って顔を出した。
賢ちゃんは眉をしかめ、いつになく厳しい目つきをしていた。前髪から滴る雫が鬱陶しいのか、手でグシャ、と触って掻き上げている。
「そんな言い方、賢ちゃんらしくないよ?」
「とにかく。彩月が気にする事じゃないから」
彼は踵を返し、転がしたままの青い傘を取ると内側にたまった水をパシャ、と捨てている。
「……でも」
私は頼りなく歩く彼女の傘をじっと見つめ、下唇を噛んだ。
こんなの、釈然としない。
キィ、と音が鳴り、賢ちゃんが門扉を開けた。
「とりあえずこのままだと風邪ひくから、着替えたら俺んち来れる?」
「……え?」
「勉強、俺んちのリビングでいいよな?」
「あ……。うん」
さっきまでの時間に圧倒されて、本来の目的が頭から抜け落ちていた。好きな人を相手に、うっかり気の抜けた返事になる。
「すぐ……行くから」
「おう」
鉛を飲み込んだみたいに、憂鬱な気持ちを引きずったまま、私たちは別々の玄関をくぐる。
玄関で靴を脱ぐと、お母さんが「お帰り」と言って顔を出した。



