二度目の好きをもらえますか?

 立ち止まった彼に倣い、私も歩みを止める。彼の視線の先を辿った。

 賢ちゃんの家の門扉前に赤い傘が浮かんでいた。傘で顔が見えないので、差している人が誰かは分からないが、この雨の中でじっとしゃがんで家人を待っているようだ。

「……花織?」

 ポツリと漏らした彼の呟きが、私の胸裏(きょうり)に染みて、幾らかの痛みを伴う。

「っあ」

 パシャパシャと水溜まりを割り、賢ちゃんが自宅へ駆けた。私もあとから付いて行く。

「……なにやってんだよ」

 賢ちゃんの声は微かな怒りをはらんでいた。傘の主は緩慢な動作で立ち上がる。

「おかえり、賢二」

 十日ほど前に見た可愛い女の子が、赤い傘を肩に掛けてふわりと微笑んだ。小首を傾げて、緩くウェーブがかった髪を肩先になびかせる。

 賢ちゃんの元カノの、カオリさんだ。

 私は二人の少し後ろに佇んだまま、動けないでいた。瞬間的に雨水が凍って、固まってしまったみたいだ。

 私は身動きのできない透明人間と化していた。

 この場では私だけが蚊帳(かや)の外で、無関係だ。その証拠に、カオリさんには無色透明の私だけが見えていないようだった。