閉じれない瞼⑦
農協職員:川口菜々の場合



「こんな言い方すると、所詮他人事だからって思われるかもしれないけど…。あなた方は、人が見ることのできない、この世に生を受けた人間の永遠のテーマ、”人間の死”ってものを生きているうちに目の当たりにすることができた。こう考えたら、他の人間には叶わないことまで知り得ることができたと…。そう言うことにもなるでしょう?」


「Hさん…」


「それならよ、いっそのこと、我々からしたら目を背けたい人間の死、死後とはってということを悟る機会にも充てられる…。まあ、通り一遍で言えばプラス思考でって事になるんだろうけど…」


「…」


「私もこの現象にはね、どこか心に訴えられるものを感じるの。…今後は私なりに、仕事仲間やインターネットを活かした情報収集とかも併せて、この関連の探求は継続していきたいと思ってるから。あなたたち、実際の当事者とも一緒に…」


私は大げさでなく、Hさんのこの”宣言”には、百万の援軍を得た思いに至りました。
嬉しかった…。


***


私はこれ以後も、目を閉じることが怖いという気持ちをなくすことはできないでいました。


でも、そのこととはかけ離して、目を閉じて眠ることへの抵抗、恐怖はほぼ払拭することができたのです。
無論、その瞼を閉じた暗い空間には、時折あのおぞましい顔が訪れましたが…。


それでも、Hさんの指摘してくれた”割切ること”が、幾分なりともできるようになったのです。
それによって得られた安ど感は、言い知れないほど大きかったと…。
今振り返って、そう確信できるのです。


***


あれから私は、定期的にHさんと連絡を取り合い、例の現象について情報を交換し合っています。
私もネットで自分なりに、同じ現象と闘っている”同志”の人たちとコミュニケーションをとって、Hさんが言葉にした”探求”を続けています。


私は少なからず色眼鏡で見ていた”霊能者”たる、一人の誠実に生きる人間としてのHさんに救わました。


Hさんによって、”アレ”との向き合い方を変えられる思考を得たことで、私はある意味、生まれ変わったのでしょう。
アレと遭遇する以前の私からも…。





閉じれない瞼
ー完ー