そんなこと、許されるの?

「はい……考えてみます」
「医学部コースが悪いってわけじゃない。お前の人生だからな。でも文系科目の方が得意だろ? それが生かせる学部でもいいんじゃないか」

そう告げて、先生は職員室へ戻っていった。

教師……、大学教授。文系の学部!? 降って沸いた自分の新たな選択肢に揺れ動く。
自分がやりたいことってなんだろうと問いかけながら塾をあとにした。
頭がぼーっとする中、なんとか商店街でお弁当を、買って家路に着く。

──ガチャ

「ただいま……」

消えそうな声で中へと声をかける。ずいぶん静かだ。

「ゆめー?」

薄暗い家の中へ入る。リビングにゆめはいない。祖父の離れのドアは開いていて、そろそろとのぞくと風が吹いてくる。

どこかの窓が開いているらしい。祖父の部屋の前で声をかけるが返事がない。
そっと開けると、縁側の窓が空いていて、白くて長い耳がピョンと跳ねては消え、ぴょんと跳ねては消えているのが見える。

「ゆめ?」

低い音で「プゥプゥ」と鳴き声がする。え? ウサギって鳴くの?
慌てて縁側に駆け寄ると、庭の青い芝生の上で美しい白ウサギがちょこんと座ってこちらを見ていた。

「ちょっと、ゆめ。何してるの?」

おおかた、また外にいるうちに月が隠れてしまったのだろう。はじめは呆れながらゆめを抱き上げて、リビングへ連れて行き、足をウェットティッシュで拭いてから下へおろした。

「ゆめ、どうしたの。外に出ているうちに時間になっちゃったの?」

こくこくと、かわいい顔を上下させてうなづいている。

「誰にも見られなかった? 生垣はのぞけば中も見えるんだから」

少し厳しくはじめが言うと、しゅんとして動かなくなったゆめ。
いまここにいられるのなら、見られてはいないのだろう。月の出は、日がかわって0時13分。話をするには時間が遅い。明日の朝にでも話を聞こうと、はじめは息をつく。