前世とか生まれ変わりとか、あるわけないって思われる。

 そういうオカルト的なものには根拠がないし、真偽は本人にしか分からない。

 「自分には前世の記憶がある!」って言われても、易々と信じられるはずがない。

 テレビとかでも、たまにそんな人を見かける。

 でも結局、自分じゃないんだから前世があるかどうかなんて定かじゃない。

 だけど、それがもし……自分だったら。

 前世の記憶があって、全てを知っているとしたら。

 俺は昔、埜雅(のあ)という殿様だった。

 それなりに地位が高く、前世ではよく“埜雅さん”と呼ばれていた。

 ……ある、一人の女性に。

 親し気に、嬉しそうに呼んでくれた彼女をひと時たりとも忘れた事はない。

 だってその彼女は……俺の想い人だから。

 前世の俺は、貴族であった為か人と関わる事を面倒だと思っていた。

 しかも昔は今世と違って、貴族だからと縛られる事も多々あった。

 気軽に城下町に行けない、自由な時間なんかほとんどなかった。