嫌いな人の声が聞こえて、反射的に振り返る。

 視界には壁にもたれかかっていて、にやついてこっちを見ている右京拓海の姿が映った。

 口角を上げて意味深に笑っているそいつに、今にも殴りかかってしまいそうになる。

 こいつはさっき……咲桜を抱きしめていた奴だ。

 そんな奴を簡単に見過ごせるほど、俺は大人じゃない。

 ただの……ガキだから。

「どうしてここにいらっしゃるんですか?あなたはバスケの指導があるはずですよね?」

「まだみんな自主練してるからね~。俺は校内探索してても良いって言われたから、お言葉に甘えてるだけだけど。」

「そうですか。」

 こいつの全てが、気に食わない。

 へらへら笑っているところも、言葉を上手に躱してしまうところも……余裕そうな姿も。

 前世の様子を思い出させる姿に、下唇を噛み締める。

 こいつは本当……現世でも、俺と桜華の仲を裂こうとするのか。

 ……いや、もう桜華じゃないな。

 彼女は……京都咲桜という、一人の人間だ。

 こういう時に桜華のことを真っ先に考えてしまうから、咲桜にも指摘されてしまったのか。