「あっ分かっちゃった♡ その子と何かあったんでしょ。だから渡せなかったし,いつになく不機嫌なの」

「だから不機嫌なんかじゃ」

「うんそっか。何かはあったんだね~?」

「うるさい」



あの日,初めて水無月薫を意識して待っていた。

渡そうと考えていた物を,バックに密かに詰め込んで。

だけど私は結局,その日の内に渡すことを,躊躇したんだ。

あの言葉は,きっと。

もう私の事なんて好きではないと言う意味なのだろう。

だから気にするなと言う,薫なりの配慮なんだろう。

たったそれだけの事に意識引かれるのは,何故なんだろうか。



「ねぇいづみ? 私に話すくらい,渡したい物だったんでしょ? ちゃんと渡さなきゃ」



奏はふわふわと髪の毛を弄る。

そして



「余りは私が貰う約束だもの。私はいつになったら貰えるのかな~?」



またからかうように私を見た。



「あと少し,待ってろ」



ため息をついた私は,どきどきとうるさい心臓とともに,奏から視線を外した。