オタクな俺とリアルな彼女。

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先輩の配信命な俺は,長風呂しすぎてバタバタと髪を拭きながら配信の画面を開いた。



『君達の話を聞く前に,今日は先に聞きたいことがある』


 
先輩から話題を出すのは,珍しい。

記憶を辿っても,ほぼない。

あったのも,配信のルール説明や違反者への警告時だけだった。

不思議に思いながら待つと,先輩は



『私は割りと長いこと配信をしてきたと思っているのだが,君達リスナーはグッズと言うものを欲しいと思うものなのだろうか』



突然の切り出し。

まさか,とコメント欄がざわめき荒れる。



『ある知人の提案でな。今も見ているのかもしれないが……2種類,グッズの案がある。投げ銭で得た資金は少なくないし,普段の配信を楽しんでいるのは私も同じ。もしも君達に望む声があるのならば,私にはそれを"プレゼント"として企画するつもりがある』



リスナーの反応を待つように,先輩はじっくりと間を空けた。

それが終わったのか,瞬きをした先輩がもう一度口を開く。

知人って……俺の事,だよな。

配信で口にしてもいい存在なのか,俺は。

先輩が身内の話をすることなど,ない。

初配信から見ている俺は知っている。よって,色々な混乱がコメントで見られた。

企画に喜ぶ声に,俺の心も便乗するように浮き立つ。



『……やかましい。私の知人の話など,知ってどうしようと言うのだ。今は置いておけ。まず,企画は抽選の予定だが,その内容。牽いてはどのようなグッズか分からなければ,応募のしようが無いだろう,少し待ってくれ』



先輩は隣の机からパソコンをずるずると取って,カメラにその画面を近づけた。

俺がボールペンの状態で見たあのイラストが,完璧なデジタル絵で再現されている。

この高揚を,俺は一生忘れないと思った。



『デザインは2パターンあるのだが,白いTシャツかアクリルキーホルダーかで今も決めかねている。君達はどちらがいいと思う?』



ぽこぽこと判断の早い人間がコメントしていく。

俺はこんな時もコメント出来ずにいた。

だって……こんなのどっちも欲しい…!

リスナーの意見は…



『ふむ,五分か。ならば少し面倒であるものの,個人で選択してもらうことにしよう。この為だけに,Twitterを開設した。リンクは概要に張ってあるから,そこへ飛び,固ツイに各自リプをしてくれ。1人1回だ。複数アカウントを確認した場合も,応募権利はないものとする。フォローやRTの必要はない,どうせすぐに消すからな』



RTは,身バレ防止のため,か。

あまり効果はないだろう。

好きなものは広めたいのが人間だ。