『これはあくまで推測に過ぎないが,君は普段からその幼馴染みとやらに,彼をとられやしないかと焦っているのではないか?』



隣のパソコンの横に,彼女は酒を手放した。

1度話し始めたら,彼女は止まらない。



『そして会話する際には,自分をまず置いておこうとするだろう。だが,恐らくそれは相手からすると逆効果だ。探られているような気分になっても仕方がない』



ギッと手すりに肘をついて,彼女は拳にこめかみをあてる。

そして目を閉じ,1拍置いてゆっくりとあげた。

長い睫毛から大きな瞳が覗いて,好きだと思う。



『私は常々,距離を縮める会話と言うのは情報交換だと思っている。極端な例を挙げるならば,黒歴史や苦手なものを,一方的に赤裸々に語ることを躊躇なく行える人間など限られている,と言うような事だ』

『つまり,相手と共に過ごす場合,まず君自身が力を抜かなければならない。そうすれば相手も安心し,より良好な関係を得られるだろう。もちろん詳しいことは分からないし,これは私の一意見に過ぎない。気に触るような事があれば聞き流してくれたまえ』



彼女は目を閉じ,疲れたようにため息をついた。



『もしもこれが付き合いたてと言うことでなく,浮気の前兆のような話なのであれば,容赦なく張っ倒せばいい。私ならそうする。相手が善良なのであれば,不安を口にしても良いだろう。何はともあれ,どうしてもだめならまたここへ来い。話くらいは聞いてやる』



本がパタンと閉じるように,彼女の話は終わる。

そして次の瞬間には



『次』



と言う彼女の声が耳に響いた。