彼はタブレットから、声をかけて来たCAに視線を移すと『僕は大丈夫』とツレナイ返事の後、私を見て『優人と薫は?』って聞いてくる。
CAは一瞬の真顔のあと、私たちに硬い微笑みを向けると「何になさいますか?」と聞いてくる。
彼はその間に、長い脚を組み替えて、タブレットを置くと彼の顔を隠していた眼鏡を外す。

CAの視線が俊に注がれたのは言うまでもない。
少し長めのブラウンの髪から覗く涼しげな二重の瞳は優し気で、完璧にCAの彼女の心を鷲掴みにしている。
『ちょっとトイレに行ってくる』と低めでいて深みのあるバリトンボイスで私に声をかけると、傍にいたCAに『失礼』とだけ言って通路を歩いて行ってしまった。立ち上がり、横をすり抜ける俊の顔面を頬を染めながらガン見するCAは暫く後姿を見ていた。
「素敵ですねぇ、、」CAの呟きに驚く。
「えッ?」私の声で我に返ったCAが「大変失礼いたしました」とお辞儀をしてくるから、私は苦笑いをするしかない。

確かに3年前も彼は女性に騒がれそうな風貌であったが、最近の彼は輪をかけて素敵なのかもしれない。引き締まった体躯やその容姿は変わらないのだが、年齢を重ねたそこはかとない色気と 洗練されたその佇まいについ見惚れてしまうのだ。
良い意味でアメリカナイズされたというか、紳士的なのに嫌味がない。 

若い時は、それなりに女性とも遊んでいたらしいけど(後輩の木村先生が、いろんな先輩に聞いたらしい)、今のところ私の前では、私だけが特別なんだと言い張る。

福岡の彼の実家へ行く最中に、彼に視線を投げかける女性(ひと)を見ていると、この先が不安になってくるのは私の思い過ごしだろうか。