ある日、肘を擦りむいた女性(ひと)が僕の自宅に突然やって来た。医院をやっているんだから、怪我人ぐらいは来るだろう。しかし医院の受付じゃなくて、自宅の玄関になのだ。
そして、その女性は笑顔で言うんだ。

「片瀬さんのお家ですか?」
『ええ・・そうですけど』

その女性はワンピースの片側が泥で汚れていて、転んだのか肘の付近には血が滲んでいた。 俺はその肘をジッとみてしまう。

「あの~、、そこで転んじゃって、肘を擦りむいちゃいました」
『ちょっと診せて、手当しなくちゃ』


それが、僕の妻になったウチの(はるこ)との出会いだった。
後で、見合いの相手だったと知ったのだけど、何ともインパクトのある出会い方で。美子(かのじょ)とは違う、美人?いや、愛嬌がある?、、とにかく、心のあたたかい女性だった。

アルバムを整理しながら、ウチの(はるこ)が、この写真を一番後のこのページに貼ったんだろう。
俺に何か問い詰めたりする事もなしに。

「薫さん、どうしたかな? 何かな? ああ・・・」

俊の嫁の薫さんが、美子(かのじょ)との写真に驚きの顔をする。「懐かしいなぁ」という声をだしたけど、実は嫁の顔をみて思い出していた。この写真の美子(かのじょ)さんの事だ。
どことなく似ていたから。

「ああ、その女性はウチのじゃないよ。あはッ、こんな所に貼ってあったんだ。この写真はね、、」
「この女性は私の母です」 はぁ?、、何だって? いくら何でもそれは。
「・・薫さん、・・・薫さんは美子さんの?」嫁の薫さんは驚きながら頷いた。

「まさか? 嘘だよね?」そう言いながら顔が引きつるのを感じた。
「美子は、私を産んでくれた本当の母の名前です。それにこの写真の女性が母です」
『・・・・・・・』

薫さんに何も言えず、ただ顔をみつめてしまう俺は、徐々にこの不思議な縁にただ驚いた。
「あの~ お義父さま? 母をご存知だったんですか?」
『あ・ああ、ちょっとね。そうか、そうか。薫さんは美子さんの娘さんだったのか。だから、、』

「はい? だから?」
薫さんにその先を詰められたけど、笑って誤魔化した。