そんな様子を近くにいた片瀬勇が目にしたのだ。勇はバックルに絡まって逃げる事ができない美子を助けようと、慌てて自分の馬にまたがると猛スピードで美子の馬に近づいた。

『僕の手に掴まって!身体に手を廻して!』

大声でそう叫ぶ勇の手を美子は迷わず握った。
勇は乗馬している状態で、大きく身体を横に倒して美子に腕を伸ばした。
勇は力の限り美子の腕を掴んでから、身体を引き上げた。


動きの止まった馬の横で、緑の芝の上で呆然と座り込む美子。
美子は小さなかすり傷はあったものの、大きな怪我もなく奇跡的に助かったのだった。
勿論、ひとりでは今頃どうなっていたかと思うだけで震えてしまう。

『はぁ、はぁ  君、大丈夫?』

荒い息を整えながら美子に話しかけるに勇に、美子は何も答えられない。

「痛ッ・・」
身体を動かそうとして、自分の肘がチクッと痛みが走って声を小さく上げた。

勇は美子の腕を取るとブラウスのそでを上げて肘を確認した。その行動に美子は驚きで固まっている。父親以外の男性に、それも同年代の初めて会った男性に肌を見られ、触れられているのだから。

「触らないで!」
『えッ?』

勇は美子の肘がすりむいて血が滲んでいたのを確認したのだが、彼女に拒絶の言葉を言われ、どうしたものかと一瞬怯む。
それでもポケットからハンカチを取り出すと『失礼』と声をかけ、美子の肘にあてる。美子は今度はさすがに、そんな勇の行動をただ黙って見ているだけだった。

『止血はできたけど、ちゃんと消毒したほうがイイな』