「どうして二つ認識表を持っているのか、聞いてもいいですか?」

桜士が一花の顔を見つめる。彼女の顔からは先程の笑顔は消えて悲しそうなものになっている。

「四月一日先生……」

一花は認識表を桜士に見せる。そこに書かれていた名前は、「四月一日一花」ではなく「イ・ミンジュン」と書かれている。韓国人の男性の名前だ。

「ミンジュンは、eagleのメンバーで俺と同じ麻酔科医だったんだ」

アルフレッドがドリンクバーのコーラを一口飲み、静かに口を開く。次に一花が言う。

「二年前、私たちはシリアで活動することになりました。傷付いた兵士や民間人の治療に当たる毎日でした。そんなある日、私たちが寝泊まりをしているテントがテロ組織の攻撃を受け、私たちは銃を片手にバラバラに逃げることになりました。……私は、ミンジュンと一緒に逃げました」

一花の肩が小刻みに震える。ナタリアとモニカがそっと彼女の肩に触れ、背中をさする。桜士は彼女から目を離せなかった。