キスなど公安の捜査の中で何度もしたことがあったはずだった。そこにときめきなどはない。好きな人とするキスが特別など、知ることもなかった。

(こんなにも胸が苦しい……。心臓が止まってしまわないだろうか……)

事故とはいえ、桜士の心の中は幸せで満たされていた。胸が高鳴り、脈が早くなるのを感じる。そして、唇から甘酸っぱさを感じた。これは、先ほど一花が食べたミックスベリーパンケーキのものだろう。その時、幸せな気持ちに浸っていた桜士はあることに気付く。

「四月一日先生、何故アナフィラキシーショックを姫香さんが起こしたのかわかりました」

そう桜士が声をかけると、ボウッとしていた一花はハッと気が付き立ち上がる。その目は医師のものに変わっていた。

「一体、どうしてですか?」

桜士が突き止めた真実に、一花は再び顔を赤くしていた。



真実を教えるため、桜士と一花は庄司がいない時に姫香と尚を呼び出す。突然の呼び出しに二人は緊張したような顔を見せ、指に髪を巻き付けていた。