その様子を見て、桜士の心は少しだけ痛みを発する。いつも食堂でご飯を食べる際、一花はヨハンからはおかずを一口平気で貰っている。だが、桜士だけ拒否されたのだ。

「本田先生、一花は先生が嫌いで拒否したんじゃないんですよ。だから安心してくださいね」

「でも、絶対君たちってこういう感情には鈍感だよね?自分の気持ちはもちろん、相手の気持ちも」

分厚いパンケーキの上に生クリームを乗せただけのシンプルなパンケーキを食べているナタリアが言い、その隣でローストナッツとバナナ、そしてたっぷりのキャラメルソースのかかったパンケーキを食べながらクラウディオが笑う。

二人のーーー主にクラウディオの言っている言葉の意味がわからず、桜士は首を傾げる。すると同じような動作を隣で一花もしているのを見て、胸が温かくなるのだ。

(やっぱり、彼女に恋をしているんだな)

ナタリアが言った一花の気持ちや、クラウディオが言った鈍感の意味はわからなかったものの、一花を見ていると「好きだ」と自然に思えてしまう。恋をして、潜入捜査も嘘も関係ないのだと桜士は知った。