(いつか、二人きりで食事できる日が来たらいいんだが……)

嘘まみれの自分が普通の恋愛をできるとは思えない。だが、夢を見てしまうのだ。桜士の作った和食をおいしそうに食べる一花を想像するだけで、こんなにも幸せに満たされていく。

想像の世界にどっぷりと浸かってしまいそうになっていた桜士だったが、スマホが音を立てたことで現実に戻る。誰かからメールが届いていた。

「安藤警視正からだ」

公安の方で何かあったのだろうか、緊張を胸に走らせながらメールを開く。そこにはこう書かれていた。

『九条くん、昨日言いそびれてしまったからメールで伝えるよ。ここ最近、Cerberusの動きがまた活発になっている。先日フランスの病院が奴らに襲撃を受けたから、警戒してくれ』

「Cerberus!」

桜士の目が鋭くなる。ドクドクと心臓がうるさく、呼吸が荒くなっていった。

Cerberusとは、公安をはじめ各国の捜査機関が追っている犯罪組織の名前である。違法薬物や武器の売買、人身売買、さらには要人の暗殺も平気で行う組織だ。