わたしの世界はとても静かだ。
誰も入る事の出来ない静寂に包まれている。
もう二度と、愛する人の声を聴く事だって出来ない。
だけど、わたしの世界は寂しくない。
苦しみや怖さだけで成り立っているわけではない。
言葉は透明。
その透明な言葉をわたしは編んでいく。
時には手話や文字というカタチを織り交ぜながら大切に、大切に編んでいく。
聞こえないけれど、透明だけど、わたしはこの先もずっとその透明な言葉たちを大切にしていきたい。
だって言葉は想いなのだと、そう思えるから。
「千冬、雪降ってきた」
空を見上げれば、ぽつりぽつりと落ちてくる雪。
手のひらを出してみれば雪はすぐに体温で溶けて消えてしまった。
「積もるかな?」
「(まさかまだ雪だるま作りたいとか言うんじゃないよな?)」
「⋯⋯悪い?」
わざとらしく奇怪な視線を向けてくる千冬にわたしも挑発的な顔をして返せばふ、と千冬が吹き出して笑った。
「(しょうがねぇから一緒に作ってあげるよ)」
「⋯⋯ミニ雪だるま、作ろうね」
「(積もったらな。とりあえず今日は六花の誕生日祝わせて)」
そう言って千冬が再び歩き出す。
その歩幅はちゃんとわたしに合わせてくれている。
歩いている時は正面から口の動きを読み取る事が出来ないから普段よりも読唇術の精度が落ちてしまうけれど、読み取る事が不可能な訳ではなく。
だけどわたしが手話を使う事も、きっとそういう事も、全てわかった上で千冬は手を繋ぐ事をせずに隣に立って歩いてくれている訳で。
「(早く手話マスターする)」
「今度一緒に練習しよう。わたしもまだ完璧なわけじゃないから」
「(ん。色々教えて)」
歩み寄って、一緒に日々を過ごしてくれようとしてくれる事がどれほどわたしに勇気をくれるか、分かっているのかな?きっと分かっていないんだろうな。
だって千冬はいつだって無意識の内にわたしを喜ばせて幸せにしてくれる天才だから。
わたしと一緒にいるという事は大変な思いもするかもしれないし、困ってしまう事もあるかもしれない。
だけど、それでもいいと千冬は言ってくれた。
聴覚障害という障がいを持っているかもしれないけれど、わたしはわたしなのだと。
わたしだから傍にいたいのだと。
ただ誰よりも大切だから、好きだから傍にいたいだけなのだと。
その言葉が、想いが、わたしにとって光なんだ。
「千冬」
「(ん?どうした?)」
「好きだよ」
「(⋯⋯)」
「すごく、すごく好きだよ」
いつだって光を与えてくれたのは千冬だった。
今、わたしがわたしを受け入れられているのも千冬がいたからだった。
そしてこの先もそれは変わる事のない永遠なのだと思う。
「千冬も言って」
「(⋯⋯)」
「聞きたい、好きだよって」
聞こえない。だけど聞こえている。伝わっている。
「(好きだよ、六花)」
ほら、あなたの透明な言葉はちゃんと、わたしに伝わった。
透明を編む 【完】
誰も入る事の出来ない静寂に包まれている。
もう二度と、愛する人の声を聴く事だって出来ない。
だけど、わたしの世界は寂しくない。
苦しみや怖さだけで成り立っているわけではない。
言葉は透明。
その透明な言葉をわたしは編んでいく。
時には手話や文字というカタチを織り交ぜながら大切に、大切に編んでいく。
聞こえないけれど、透明だけど、わたしはこの先もずっとその透明な言葉たちを大切にしていきたい。
だって言葉は想いなのだと、そう思えるから。
「千冬、雪降ってきた」
空を見上げれば、ぽつりぽつりと落ちてくる雪。
手のひらを出してみれば雪はすぐに体温で溶けて消えてしまった。
「積もるかな?」
「(まさかまだ雪だるま作りたいとか言うんじゃないよな?)」
「⋯⋯悪い?」
わざとらしく奇怪な視線を向けてくる千冬にわたしも挑発的な顔をして返せばふ、と千冬が吹き出して笑った。
「(しょうがねぇから一緒に作ってあげるよ)」
「⋯⋯ミニ雪だるま、作ろうね」
「(積もったらな。とりあえず今日は六花の誕生日祝わせて)」
そう言って千冬が再び歩き出す。
その歩幅はちゃんとわたしに合わせてくれている。
歩いている時は正面から口の動きを読み取る事が出来ないから普段よりも読唇術の精度が落ちてしまうけれど、読み取る事が不可能な訳ではなく。
だけどわたしが手話を使う事も、きっとそういう事も、全てわかった上で千冬は手を繋ぐ事をせずに隣に立って歩いてくれている訳で。
「(早く手話マスターする)」
「今度一緒に練習しよう。わたしもまだ完璧なわけじゃないから」
「(ん。色々教えて)」
歩み寄って、一緒に日々を過ごしてくれようとしてくれる事がどれほどわたしに勇気をくれるか、分かっているのかな?きっと分かっていないんだろうな。
だって千冬はいつだって無意識の内にわたしを喜ばせて幸せにしてくれる天才だから。
わたしと一緒にいるという事は大変な思いもするかもしれないし、困ってしまう事もあるかもしれない。
だけど、それでもいいと千冬は言ってくれた。
聴覚障害という障がいを持っているかもしれないけれど、わたしはわたしなのだと。
わたしだから傍にいたいのだと。
ただ誰よりも大切だから、好きだから傍にいたいだけなのだと。
その言葉が、想いが、わたしにとって光なんだ。
「千冬」
「(ん?どうした?)」
「好きだよ」
「(⋯⋯)」
「すごく、すごく好きだよ」
いつだって光を与えてくれたのは千冬だった。
今、わたしがわたしを受け入れられているのも千冬がいたからだった。
そしてこの先もそれは変わる事のない永遠なのだと思う。
「千冬も言って」
「(⋯⋯)」
「聞きたい、好きだよって」
聞こえない。だけど聞こえている。伝わっている。
「(好きだよ、六花)」
ほら、あなたの透明な言葉はちゃんと、わたしに伝わった。
透明を編む 【完】



