「(六花、本当はこんな早々に渡すものじゃないんだろうけど今日は寒いから⋯⋯つーか、俺が早く渡したいだけなんだけど誕生日プレゼント、これ)」
せっかくの誕生日デートだからと、少し遠出になってしまうけれど隣の県にある有名な水族館に行き、夜はレストランで食事をした後、クリスマスシーズン後もやっているというイルミネーションを観に行くという計画を立てていたのだけれど、どうやら千冬はまだ駅に向かっている途中の道中でプレゼントをくれるらしい。
立ち止まり千冬の顔を見上げるわたしに「(もう一つちゃんとしたプレゼントはあるから安心して。⋯⋯まあ、今渡すのがちゃんとしてねーわけじゃないんだけど)」とかなんとかごにょごにょ言いながらそのプレゼントとやらを手にした。
「⋯⋯これ、」
「(あの時と全く同じ物ってわけにはいかなかったけど、これも六花に似合うと思って選んだ)」
「⋯⋯っ」
「(ほら)」
そう言ってわたしの首に巻かれたのは中学二年生の時に千冬が誕生日プレゼントとしてくれた真っ白のあのマフラーと同じ、白いマフラーで。
中学生の頃にくれたマフラーよりも少し厚みがあって、モコモコの代わりに毛糸の束が先に付いているマフラーが与えてくれる温もりに一気に三年前の誕生日が蘇ってくる。
「あったかい⋯⋯」
首に巻かれたマフラーを両手で撫でた後握りしめれば、なんだか視界が歪む気配がしてずっ、と鼻を啜った。
「(やっぱ六花は白が似合う)」
なんとか涙を堪えて「ありがとう、大切にするね」
と言ったわたしに千冬が小さく微笑んだ。
その表情はどこまでも、どこまでも優しくて、ずっと千冬のこの顔が見たかったのだと思った。
「ねぇ、千冬。わたしね、冬が一年の中で一番好きなんだ」
「(⋯⋯俺も冬が一番好き)」
春頃に千冬に好きな季節は?と尋ねた時とは違う答えは三年前と同じ答えで。
「⋯⋯理由は?」
「(たぶん六花と同じ)」
「⋯⋯わたしは千冬が生まれた季節だから冬が好き」
「(⋯⋯俺も。六花が冬の季語で、六花が生まれた季節だから冬が好き)」
三年越しの答え合わせ。
もっと早く苦しみから解放されたかった解放してあげたかった。
だけど今となっては、⋯⋯今だからこそ、時間が必要だったんだと思える。



