透明を編む 【完結】

少し前の雪乃ちゃんとの会話を思い出していれば千冬の目線がふわふわに巻かれたわたしの髪の毛へとある事に気付く。


「髪の毛、気付いた?」

「(いつもよりふわふわしてる)」

「優愛にふわふわにする方法教えてもらったんだ」


千冬とちゃんと向き合い、想いが通じ合った事を優愛に報告した時、優愛はまるで自分の事のように喜んでくれて祝福してくれた。


『(ほんとにさ、千冬くん何考えてんの!?六花のこと傷付けるなって何っ回も思ったりしたけど彼は彼でただ六花のことが大切だっただけなんだね。⋯⋯まあ、果てしなく言葉足らずで不器用だけどそっかあ⋯、好き過ぎたんだね)』


しみじみとそう零した優愛は後輩の彼氏ともラブラブな様で、今度四人で遊びに行く約束も交わした。

そんな優愛に今日千冬といわゆるデートというものをする事を伝えたら、だったら、とコテで髪の毛をふわふわに巻く方法を伝授してくれたのだ。

不器用なわたしにとって髪の毛を巻くという作業はなかなかに難しかったけれど、ジェスチャーやスマホのメモ機能を使ってなんとか上手く巻ける様に教えてくれた優愛のおかげで、今日の出来はわたしの中では上々だ。


「どうかな、可愛い?」


言った後に気付く。

“可愛い?”なんて本人に聞くのは迂闊だったと。

だって、なんだかちょっぴり⋯⋯いや、かなり照れくさくないだろうか?


「あ、やっぱ今のなし⋯、なしにしといて」


恥ずかしくなって顔の前で手をパタパタと横に振るわたしに千冬は困った様に視線を逸らした後、唇を開きかけて閉じる行為を二回繰り返した。


─────そして左手のひらを下に向けた後、左の手の甲を右手で撫でる仕草をした。


それは“可愛い”の意味を持つ手話で。


「⋯⋯っ」

「(⋯⋯なんか言えよ)」

「っう、嬉しい、ありがとう」


ツンとした何とも言い難い空気がわたし達の間に流れて、だけどそれは落ち着きはしないものの嫌な空気ではなかった。