冬の静かで儚い空気に包まれながら、緊張の糸が解けたためか今度はわたしの目から涙が溢れる。
「(⋯⋯なんで泣くんだよ)」
困った様に僅かに眉を下げた千冬に握っていた手を一度離してから頬に流れた雫を拭う。
「やっと、解放出来たなって」
「(⋯⋯)」
「あの事故から、やっと、千冬を解放してあげられた」
「(⋯⋯)」
「わたしね、最後に聞いた音が千冬が叫ぶ様に震えた声でわたしの名前を何度も何度も呼ぶ声だった事がすごく辛かった。悲しかった」
「(⋯⋯ああ)」
「だけど⋯、だけどこの先、たとえもう千冬の声を聴く事が出来なかったとしても千冬が楽しそうに笑っていてくれればそれでいいなって思う」
「(⋯⋯っ)」
「千冬と同じ様にわたしも千冬に笑っていて欲しい」
事故に遭って、聴力をほとんど失ってしまい絶望した。
だけどそこに希望の光を射してくれたのは他の誰でもなく千冬だった。
毎日千冬が病室に会いに来てくれて筆談とスマートフォンを使って時間をかけて会話をする。
その時間がわたしには何よりの希望だった。
全てが変わってしまった恐ろしい程の静寂の世界の中で千冬が変わらないでいてくれた。
それだけがわたしに前を向く勇気をくれたんだ。
「わたしの光だった。あの頃のわたしには千冬だけが世界の中心だった」
千冬がお見舞いに来なくなった時、音が聴こえなくなった時と同じくらいの悲しみを感じた。
目の前が真っ暗になった。
だけどわたしが全てを投げ出して塞ぎ込んでいたらそれこそもう二度と千冬は笑ってくれないと思ったから。
だからどんなに辛くても寂しくてもどうしようもなく泣きたくなっても、今日までを過ごしてきたんだ。
「(⋯⋯りっか)」
千冬の冷えた指先が柔らかくわたしの目尻を撫でる。それが心地よくてついまどろんでしまいそうになった。
きっと今、千冬は優しい声でわたしの名前を呼んだんだろうなって、実際には聞くことは出来ないけれどわかったんだ。
「(六花が笑っててくれればそれでいいって思ってた。たとえ俺が恨まれていようとも、六花が幸せになってくれればいいって)」
「うん」
「(離れてやる事が六花の為だと思った)」
「⋯⋯」
「(それなのに⋯、何で近付いてくるんだよって、恨んでんならもう関わるなよって、六花の本音が分からなくてそれにイラついたりもした)」
「うん」
「(六花が俺の知らないところで幸せになってくれたらそれでいいって自分の気持ちを押し殺してるつもりだったのにやっぱダメだった)」
「⋯⋯千冬?」
「(離れてやる事が一番だと思ったのに俺の傍にくる六花にイラつくって事は本当は六花の傍にいるのは俺がいいって事だろ⋯?)」
「⋯⋯っ」
「(嬉しくて、でも俺が傍にいちゃいけないって⋯、おかしくなりそうだった)」
「千冬⋯⋯、」
「(本当は俺が六花を笑わせてやりたかった。幸せにしてやりたいってずっと思ってた)」
「⋯⋯うん、」
「なぁ、まだ、間に合う⋯?」
縋る様に揺れる瞳は不安げにわたしを映す。
こんな事を思うのは少し場違いかもしれないけれど、なんだか千冬が可愛く思えて、ぎゅうっと胸が締め付けられた。
「間に合う、って⋯⋯?」
「(⋯⋯俺が六花を笑顔にしたい)」
「⋯⋯っ」
「(ずっと傍にいて幸せにしてやりたい)」
「(⋯⋯なんで泣くんだよ)」
困った様に僅かに眉を下げた千冬に握っていた手を一度離してから頬に流れた雫を拭う。
「やっと、解放出来たなって」
「(⋯⋯)」
「あの事故から、やっと、千冬を解放してあげられた」
「(⋯⋯)」
「わたしね、最後に聞いた音が千冬が叫ぶ様に震えた声でわたしの名前を何度も何度も呼ぶ声だった事がすごく辛かった。悲しかった」
「(⋯⋯ああ)」
「だけど⋯、だけどこの先、たとえもう千冬の声を聴く事が出来なかったとしても千冬が楽しそうに笑っていてくれればそれでいいなって思う」
「(⋯⋯っ)」
「千冬と同じ様にわたしも千冬に笑っていて欲しい」
事故に遭って、聴力をほとんど失ってしまい絶望した。
だけどそこに希望の光を射してくれたのは他の誰でもなく千冬だった。
毎日千冬が病室に会いに来てくれて筆談とスマートフォンを使って時間をかけて会話をする。
その時間がわたしには何よりの希望だった。
全てが変わってしまった恐ろしい程の静寂の世界の中で千冬が変わらないでいてくれた。
それだけがわたしに前を向く勇気をくれたんだ。
「わたしの光だった。あの頃のわたしには千冬だけが世界の中心だった」
千冬がお見舞いに来なくなった時、音が聴こえなくなった時と同じくらいの悲しみを感じた。
目の前が真っ暗になった。
だけどわたしが全てを投げ出して塞ぎ込んでいたらそれこそもう二度と千冬は笑ってくれないと思ったから。
だからどんなに辛くても寂しくてもどうしようもなく泣きたくなっても、今日までを過ごしてきたんだ。
「(⋯⋯りっか)」
千冬の冷えた指先が柔らかくわたしの目尻を撫でる。それが心地よくてついまどろんでしまいそうになった。
きっと今、千冬は優しい声でわたしの名前を呼んだんだろうなって、実際には聞くことは出来ないけれどわかったんだ。
「(六花が笑っててくれればそれでいいって思ってた。たとえ俺が恨まれていようとも、六花が幸せになってくれればいいって)」
「うん」
「(離れてやる事が六花の為だと思った)」
「⋯⋯」
「(それなのに⋯、何で近付いてくるんだよって、恨んでんならもう関わるなよって、六花の本音が分からなくてそれにイラついたりもした)」
「うん」
「(六花が俺の知らないところで幸せになってくれたらそれでいいって自分の気持ちを押し殺してるつもりだったのにやっぱダメだった)」
「⋯⋯千冬?」
「(離れてやる事が一番だと思ったのに俺の傍にくる六花にイラつくって事は本当は六花の傍にいるのは俺がいいって事だろ⋯?)」
「⋯⋯っ」
「(嬉しくて、でも俺が傍にいちゃいけないって⋯、おかしくなりそうだった)」
「千冬⋯⋯、」
「(本当は俺が六花を笑わせてやりたかった。幸せにしてやりたいってずっと思ってた)」
「⋯⋯うん、」
「なぁ、まだ、間に合う⋯?」
縋る様に揺れる瞳は不安げにわたしを映す。
こんな事を思うのは少し場違いかもしれないけれど、なんだか千冬が可愛く思えて、ぎゅうっと胸が締め付けられた。
「間に合う、って⋯⋯?」
「(⋯⋯俺が六花を笑顔にしたい)」
「⋯⋯っ」
「(ずっと傍にいて幸せにしてやりたい)」



