透明を編む 【完結】

「(許される、のか⋯?)」

「許すとか許さないとかじゃない」

「(六花から音を奪ったのに⋯っ、)」


ぽつり、ぽつり、と涙を零していく千冬の手を更に強く握りしめる。

千冬が泣くところを初めて見たわたしはその涙の美しさに今まで千冬が心の中にずっと溜め込んでいた苦しみや辛さが浄化されていっている様だと思った。


「(大切、だった)」

「千冬⋯⋯?」

「(今までも今もずっと六花が大切だった。守りたいと思ってた。笑っていて欲しいって)」

「⋯⋯うん」

「(だけどあの事故があって、六花の顔を見る度に責められている様な気がして苦しくて酷い態度を取った。でも本当は、一番の理由は六花に笑ってて欲しかったんだよ)」


白い息と共にその唇から紡がれていくのはわたしまで泣きそうになる、秘められた想い。


「(その為には俺は近くにいたらいけなかった。たとえ六花の傍に、隣に俺じゃない人がいたとしても六花が心から笑える毎日を送れるならそれでいいって⋯、それだけでいいって思ってた。

─────ごめん、六花)」

「⋯⋯わたしはずっと、千冬と昔みたいに戻りたかった。千冬の笑顔を見たかった」


千冬の笑い声が聴こえない世界はとても寂しい。
だけど目の前で千冬が微笑んでくれるならそれだけで満たされる。それだけで救われる。


「わたしが前を向こうって、落ち込んでばかりいられないって思えたのは千冬がいたから。また、千冬と笑い合いたかったからなんだよ⋯?」


そう口にすれば千冬は長いまつ毛を上下させた後、小さく頷いた。

そしてやっと、表情を柔らかくさせてその口角をきゅっと上げたんだ。


その瞬間、ぱちん、と今までのわたし達の苦しみや悲しみや後悔やすれ違いが解けた気がして、澄んだ冬の青空から降り注ぐ陽の光がやけに眩しく感じた。