約束の十三時少し前。

やって来たのはわざわざ確認する必要のないあの公園。
前に雪乃ちゃんと話をした、わたし達が出会い、小さい頃よく遊んだ公園。

公園の敷地内に入るとベンチに座る人物を見つけて小さく深呼吸してから砂を踏みしめながら白いジャンパーを着ている千冬の元へと向かう。


「千冬」


緊張しながら紡いだその声に気付いた自身の靴の先を見つめていた千冬の瞳が上がってぱちりと目と目が合う。

ドクン、と心臓が跳ねた。

学校で会う事はあっても、隣の席で横に並んでいても、こんな風に千冬と目を合わせたのは久しぶりだったから。


「出逢わなければよかった」


あの日、最後にそう動いた唇が頭の中から離れてくれなくて、キリキリと痛む胸を抑える様にして声を発した。


――


「来てくれて、ありがとう」


それに千冬は何も返事をしなかったけれど、合わせていたその瞳が微かに揺れ動いた。

そしてトン、と自分が座っている隣を手のひらで叩いた千冬。これは、横に座れという事なのだろうか?


「座っても、いい?」


そう聞けば千冬の口が「いいよ」と動いたのを確認してからゆっくりと腰を下ろす。

二人の間に流れるのは沈黙。

冬の冷たい空気が頬を撫でて、心を落ち着かせる為に吐いた息は白かった。


⋯⋯まず、なんて切り出そうか。

話があると言ったにも関わらず千冬の方からは「話って何?」と聞いてくる事はない。

そうなると必然的にわたしが自分で切り出さなければならなくて。だけど、ここまで来て千冬に甘えるのも良くない気がして、体を千冬の方へと向けながらゆっくりと言葉を発した。


「わたし、千冬に伝えたい事がある」

「(⋯⋯)」

「千冬はわたしに合わせる顔がないって、わたしを見る度に苦しかったって言ったけど、それでもどうしても伝えたい事があるの。⋯⋯聞いてくれる?」


自分の声なんてわからない。

もう、聞こえない。

だけど今、わたしの声が震えている事は分かった。

緊張と、怖さで。

膝の上に重ねた手をきゅっと握りしめながら隣に座る千冬を見上げれば、千冬はやっぱり苦しそうな顔をして頷いた。

本当はこのまま千冬と関わる事なく日々を過ごしていけばいいのかもしれない。

そうすればいつか時間が千冬の傷を癒してくれるのかもしれない。


──────だけど、伝えなくちゃいけないと思った。

わたしが千冬の苦しみを和らげたい。
そしてわたしの想いを伝えなくてはならない。


これは正義感でも同情でもなんでもなくて、ただただわたしは千冬が大切なだけだ。
そしてわたし自身の事も救ってあげたい。

あの事故の日から進んでいる様で止まったままのわたし達の時間を進めたいんだ。