その夜、お母さんが作ってくれたシチューを食べながら少しだけ⋯⋯いや、かなり緊張をしていた。


「(どうしたの六花。難しい顔して)」


様子のおかしいわたしに気付いたお母さんがすかさずそう言いながら首を傾げるから余計わたしの心臓はバクバクとして、美味しいはずのシチューの味もあまりよく分からなかった。


「(悩みごとがあるならお父さんが聞くぞ~?)」


すぐにわたしの変化に気付き優しく見守ってくれるお母さんと、笑顔を絶やさない陽だまりの様なお父さん。

事故や障害の事で一度も涙や弱いところをわたしに見せなかった二人だけど、きっとそれは隠していたからなのだろう。

お母さんやお父さんにだって泣きたい時はあったはずで、泣いた夜もあったはず。

それでもわたしの前ではいつだってわたしを安心させる様に振舞ってくれていた。

それに気付かないほど子どもではない。


「あのね、二人とも⋯⋯、」


カチャリ、スプーンんをお皿の淵に寝かせて姿勢を正してからダイニングテーブルを挟んだ向かい側に座る二人を見据える。


「わたし、事故に遭って耳が聞こえなくなって、絶望した。恐ろしかったし悲しかった。将来を悲観して、どうして自分がって何度も思った」


そうして語り始めたわたしにお母さん達は一瞬びっくりしていた様子だけど、真剣なわたしを見て二人も食事を一旦中断してわたしの目を真っ直ぐ見つめながら話に耳を傾けてくれた。