透明を編む 【完結】

「(もう一度彼と話をしてみるといいよ)」

「⋯⋯千冬と?」

「(怖いかもしれないけど、彼とこのままなんて嫌でしょ?)」

「それは⋯⋯、そうですけど⋯でも、」

「(彼がそこまで本音を打ち明けてくれたんだ。今度は六花ちゃんの番じゃないかな)」


⋯⋯わたしの番?


「(今度は六花ちゃんが彼に対して思ってきた事、今思っている事を話す番。大丈夫。二人の糸は少し絡まっちゃっただけですぐに解けるよ)」

「⋯⋯っ」

「(わかり合うってね、片方だけの頑張りじゃ無理なんだよ。両者が向き合ってこそ、糸は解ける)」

「⋯⋯っ」

「(大丈夫、君は強い。幸せになれる)」


力強く頷きながらそう言葉を紡いだ先生にさっき止まったばかりの涙がまた溢れ出した。


わたしの世界から音が消えてから両親でも千冬でも優愛でも埋められない寂しさや孤独を感じる時が何度もあって。
そういう時、寄り添ってくれたのが海人先生だった。


聴者とろう者・難聴者の間には壁があって、その壁を薄くしてくれたのが先生だった。

近くて遠い、遠くて近い、海人先生。

手話が上手く覚えられなかったり、授業についていけなかったり、聴者との壁に落ち込んでしまったり。そういう時に傍にいてくれたのは、海人先生だ。


聴力が弱いわたしとそれをサポートしてくれる先生と生徒。

それだけの関係。

だけど、わたしと海人先生の間にはきっと誰も入り込めない。

お父さんもお母さんも、千冬も。

支えられて、助けられて、こうしてまた支えられて。

先生に出会えて良かったと心の底から思った。

ずっと寄り添ってくれた先生の言う“強い”は勇気をくれて、“幸せになれる”は光を与えてくれた。