冬の冷たい空気が頬を刺す。

指先が悴んで喉がヒリヒリと痛んで、視界が滲む。


わたしの存在が千冬を、好きな人を苦しめていたんだとやっと気づいた時、どうすればいいのかなんてわからなくて。

ごめんなさい。と口にしたくても出来ないもどかしさに頭がおかしくなりそうだ。


ひくついて乾いた喉。
息をする度に吐き出される白い息は一体どこへ消えるのだろう。

このままいっそ、わたしごと消えてしまえばいいのに。


自分だけが被害者の顔をして千冬の気持ちなんてひとつも考えずに昔みたいに戻りたいと馬鹿みたいに能天気に考えていた事がどれ程恥ずかしくて残酷なことだったのか。



「(出逢わなければよかった)」



透明に紡がれたその言葉は呪いみたいだった。

とっくに日が落ちた世界は薄暗く不気味で、手を伸ばせば届く距離にいる千冬が果てしなく遠く感じた。

もう二度と、千冬に触れることが出来ないのだと錯覚⋯⋯、いや、思い知った。


遠くの方で声がする。

“六花”とわたしの名前を呼ぶ叫び声。

何度も何度も何度もわたしの名前を呼び続ける千冬の泣きそうな声。

掠れて震えた、悲痛な声が頭の中にこびりついて離れてくれない。記憶の隅に追いやろうとしてもそれはなかなか退いてはくれない。


「六花」


もう二度と聞くことの出来ない千冬の声。

優しくて、わたしだけに向けられた温かい声。

まだ少しだけあどけなさの残っていたあの声は今はどんな風になっているんだろう。

あの頃より低くなって大人っぽくなったのかな。今、千冬は一体どんな風にわたしの名前を呼んでいるのだろう。


もう一度、聴きたかった。

これからも千冬の声を聴いて、会話をして、笑い合いたかった。

─────せめて、最後に聞く声は泣きそうに震えた声でわたしの名前を呼ぶ千冬の声じゃなくて、いつもの様にわたしの名前を紡ぐあの音がよかった。