数秒見つめ合って。
「おはよう」と声を掛けようとした瞬間、千冬の瞳がわたしから逸れてすぐ横へと移動した。
千冬の横には可愛らしい女の子が立っていて何かを話しかけている。その後ろから男の子もやって来て、千冬と親しげに言葉を交わしている。
「(千冬と同じクラスで嬉しい)」
「(クラス表見た女子がワーキャー騒いでうるせーから何とかしろ)」
「(知るかよ。つーか眠い)」
唇の動きを見て三人の会話を理解する。
声は聞こえなくても会話の内容と雰囲気で三人は仲が良い事を察して少し寂しくなった。
当たり前だけど千冬には友達がたくさんいる。
絵画や彫刻の様に整った容姿のおかげで昔からありえないくらいモテていたし、高校に入ってからは高嶺の花過ぎて派手な人たち以外男女共にあまり積極的に話しかける人はいなくなったけど(独特の雰囲気があるからかもしれない)、彼はいつだって人を惹きつける。
今は千冬の周りには派手で例えるならカースト上位の人達が集まっているけれど、千冬本人は基本的には騒がしいタイプではなくて。それでもやはり今も昔も変わらずに彼は周りを惹きつけていた。
その後担任が入ってきて出席を取り始める。
一番最初に名前を呼ばれた千冬は机に突っ伏しているからちゃんと返事をしたのかどうか分からない。
その次にはわたしの名前が呼ばれ、先生の唇の動きを読んで返事をした後、先生から千冬へと意識を向ける。
せっかく同じクラスになれたんだ。
このままの関係を変えたいと、強く思う。
「ち、ふゆ⋯」
小さく言葉に出した声に腕を枕にして突っ伏していた千冬の腕が一瞬動いた。だけど顔を上げてはくれなくて、わたしはもう一度その名前を呼んだ。
「千冬っ⋯」
出欠確認に支障が出ないくらいの、さっきよりも僅かに大きくなった声に今度こそ千冬は顔を上げてくれた。
その事に簡単に喜ぶわたし。
だけどその形の良い唇は何の言葉も紡いでくれず、ただただ冷たい瞳だけがこちらを見つめている。
どうしてそんな目をするの?と心が締め付けられるけど、わたしはもう一度千冬の笑った顔が見たくて勇気を振り絞った。



