初めて聞いた千冬にとってのこの二年半は、あまりにも残酷に思えた。

キリキリと胸が傷んで張り裂けそうだった。


「(ずっと、会わせる顔がなかった)」

「⋯⋯っ」

「(謝っても謝りきれなくて、償う方法すらわからなくて。⋯⋯ごめん、六花。ごめんっ⋯)」


今、目の前に立つのはわたしの知らない千冬だ。

昔のような優しい笑顔でも最近のような冷たい視線でもない、ただただ泣きそうに苦しそうに、辛そうに顔を歪めている、初めて見る千冬の姿はほんの少しでも触れたら崩れ落ちて消えてしまいそうな程脆く感じて。


「千冬のせいじゃない」という言葉でさえ、発することが出来なかった。


手も口も使えるはずなのに、言葉を伝える方法はあるはずなのに、それが出来なかった。


「(忘れたかった。今までの日々もあの日の事故も)」

「⋯⋯千冬、」

「(六花から音を奪った現実に耐えられなくて、六花が背負った苦しみになんて適うはずがないのに、俺如きがこんな事言うのは卑怯だってわかってるけど、解放して欲しかった)」

「⋯っ」

「(六花を見る度に責められているようで⋯、苦しくてっ⋯)」


ゆっくりとやっとの思いで言葉を紡ぎ出す千冬の声は聞こえない。

だけど今空気を震わせているその声はきっと苦しみに満ち溢れていて果てしなく悲しい音なのだと想像するのは容易かった。