翌日から俺は六花の見舞いに行くのをやめた。

いや、行けなかったんだ。

自分で自分を許せなかった。


そうやって自分を責めて、責めて、責めて。

六花を避ければ避ける程、遠ざければ遠ざける程、六花の為だって思えた。
こんな俺が傍にいたら六花はいつまでも辛いままだろう、俺の顔なんて本当は二度と見たくもないだろう、本心では俺のことを恨んでいるんだろう。

そうやって自分勝手に物事の全てを決めつけて。



好きだからこそ遠ざけた。

六花から音を奪った俺にはもう関わらない方がいい。

六花だって俺の顔を見るのは辛いだろう。


誰にも言えない気持ちを押し殺したまま俺の前で元気に振る舞うのはあまりにも酷だろう。


そうやって六花に会いに行くのをやめて、春になって六花とクラスが分かれた事に安堵して、今になって思えば相当最低だったと思う。

この時だって自分が最低な事をしている自覚はあった。
だけどどうしようもなかったんだ。

六花に合わせる顔がなくて。

俺がいることで六花が苦しいなら、いっそ出逢わなければよかったとすら思った。


そうやって六花を避け続けて、六花は俺を恨んでいるのだと決めつけた───────。

――

一度そう思い込んでしまえば、もうその思考から抜け出す事なんて不可能だった。


六花の為には俺は六花の人生から消えた方がいい。


それも本心だったけれどきっとそんなのは結局のところ建前で、本当はただ自分が耐えられなかっただけだ。

耳の不自由な六花の傍にいる事が遣る瀬なかった。
もう二度と俺の声は六花に届かないという現実から目を逸らしたかった。
六花の世界から音を奪った自分の責任の重さに耐えられず、罪の意識に苛まれ、どうしようもなかった。

合わせる顔がないとしか言いようがなくて、時間が経てば経つほどその思いは強くなっていった。

六花の顔を見る度に責められている様な気になって、被害妄想も甚だしい程に、いつしか自分が一番辛いのだと勘違いをして。


六花の為だと遠ざけたはずの距離がもどかしくて、笑っていて欲しいのに笑う六花の隣にいない自分が許せなくて。


だから、たまたま志望校が同じだと知った時はたまらなく胸が焦がれた。

嬉しいような、そうではない様な。

六花の人生に俺はいてはいけなくて、俺も六花を見るのが苦しい。


だから高校でもなるべく距離を保って、幼なじみなんて関係なかった事にして、そしてそのまま六花にはいつか心から支えてくれて愛してくれる人と出逢って欲しいと───────、

悔しいけれどそう思っていたのに。