それはもうすぐ六花が退院するって時だった。
放課後に見舞いに行くと珍しく六花は眠っていて、最近リハビリも手話も読唇術も頑張っているから疲れたのかな、なんて思いながらベッドの横にある椅子に腰掛けながらその寝顔を見ていた。
理由もなく布団から出ている手を握った俺に六花が小さく声を零す。
「ん⋯、」
長い睫毛は白い肌に影を落とし、握った手を僅かに握り返してくれるその温もりに微かに笑みが零れた、直後だった。
「ちふ、ゆの、せい⋯、」
「⋯⋯六花、?」
「千冬の、せ、い⋯」
ドクンッと大きく跳ねた心臓。
まるでマラソンを走った後の様にバクバクと動く鼓動に吐き気さえした。
いま、何て言った⋯?
「六花、」
握った手が僅かに震えて。
目の前が真っ暗闇に包まれる。
真っ白な雪、凍った道路、青い信号。
身体に感じた六花の手の感触。
耳障りなスリップ音、耳を塞ぎたくなる衝撃音。
真っ赤なマフラー。
あの日あの瞬間の出来事が一気にスラッシュバックしてハッと息が零れた。
直前まで見ていた六花の笑顔が脳裏に浮かんで、無性に泣きたくなった。
笑ってくれる様になったと思っていた。
六花の傍にいて俺がずっと支えていくんだって、自嘲してしまう様な身勝手な思いばかり抱いていた。
でも、現実はそうじゃない。
眠ったまま静かに涙を流す六花。
六花の世界から音が消えたのは俺のせいだ。
謝っても謝りきれない。
呆然と立ち尽くす俺はただただもう戻らない日常に焦がれた。
放課後に見舞いに行くと珍しく六花は眠っていて、最近リハビリも手話も読唇術も頑張っているから疲れたのかな、なんて思いながらベッドの横にある椅子に腰掛けながらその寝顔を見ていた。
理由もなく布団から出ている手を握った俺に六花が小さく声を零す。
「ん⋯、」
長い睫毛は白い肌に影を落とし、握った手を僅かに握り返してくれるその温もりに微かに笑みが零れた、直後だった。
「ちふ、ゆの、せい⋯、」
「⋯⋯六花、?」
「千冬の、せ、い⋯」
ドクンッと大きく跳ねた心臓。
まるでマラソンを走った後の様にバクバクと動く鼓動に吐き気さえした。
いま、何て言った⋯?
「六花、」
握った手が僅かに震えて。
目の前が真っ暗闇に包まれる。
真っ白な雪、凍った道路、青い信号。
身体に感じた六花の手の感触。
耳障りなスリップ音、耳を塞ぎたくなる衝撃音。
真っ赤なマフラー。
あの日あの瞬間の出来事が一気にスラッシュバックしてハッと息が零れた。
直前まで見ていた六花の笑顔が脳裏に浮かんで、無性に泣きたくなった。
笑ってくれる様になったと思っていた。
六花の傍にいて俺がずっと支えていくんだって、自嘲してしまう様な身勝手な思いばかり抱いていた。
でも、現実はそうじゃない。
眠ったまま静かに涙を流す六花。
六花の世界から音が消えたのは俺のせいだ。
謝っても謝りきれない。
呆然と立ち尽くす俺はただただもう戻らない日常に焦がれた。



