スピード違反の上のスリップ事故だった。
六花から見て交差点の右側は僅かにカーブになっていたらしく、法定速度を超えた車が向かってくるのを六花は眉を潜めて見ていた。
雪が固まった地面、カーブの先にある交差点の赤信号に速度違反の車は止まり切る事が出来ず、結構なスピードのまま俺と六花のいる交差点に突っ込んだらしい。
慌てた運転手はハンドルを切ったものの、それが逆に凍った地面でスリップしてしまい操作不能となって六花に衝突したのだと、聞いた。
そしてその夜、緊急手術をした六花は目を覚ます事はなかった。
六花の両親はずっと六花に付きっきりで、家族ではない俺は六花の眠る病室に入る事すら許されなくて。それでも六花の傍からこれ以上離れたくはなくて家に帰る事を拒み病室前の椅子に座り続ける俺に俺の両親は掛ける言葉が見つからなかった様だ。
12時を回って六花の両親が病室から出てきた時の憔悴しきったその表情に今度は俺が言葉に詰まってしまい、それでも今回の事故は俺のせいで起こってしまった事で。
「すみま、せんでした⋯」
数時間何も発しなかった喉はカラカラに乾いてしまっていて、発した声は随分の掠れていた。
けれどそれは声を数時間出さなかったからだけではない。自分の声が震えている事はこの場にいる俺と、俺の六花と六花の両親全員が気づいていただろう。
「本当に、すみませんでしたっ…!俺のせいで六花は…、六花は…っ」
頭を下げた視界の先で六花の両親の靴先が動くのが見えて、このまま殴られる事を覚悟した。
むしろ殴られて当然だと、それだけで済むはずがない事は百も承知の上で、それでも六花の両親の怒りが少しでも和らぐならばと歯を食いしばったのに。
「千冬くんのせいじゃない」
「っ」
「千冬くんのせいでは決してないから大丈夫だよ。だからそんな泣きそうな顔をしないで」
「そうよ。六花も無事に手術を終えて、きっと目を覚ましてくれるから。だから大丈夫よ、大丈夫」
そっと肩に添えられた六花の父親の手は、とても温かくて、震えていた。
「六花を信じて待っていてくれる?」
怒るでも責めるでもなく、ただ六花が目を覚ますのを待っていて欲しいと口にした六花の両親に俺は何の言葉も出なかった。
ただその優しさに触れ、救われ、俺自身は何も出来ずに頷くだけで。
それなのに六花の両親はこんな俺に「ありがとう」と言ってくれて。きっと六花の温かさや優しさはこの二人から受け継がれてきたんだって感じたんだ。
だから俺は何があっても六花を信じて待つって誓って、この先何があっても六花のことを守り抜くって、そう、誓ったはずなのに───────。



