透明を編む 【完結】

「⋯り、っか?」


目の前には変な方向を向いたまま中途半端に止まっている自動車と、横断歩道の真ん中で倒れている六花。


「六花、⋯おい、六花、六花!」


すぐさま立ち上がり六花の元へと掛け寄れば、全身から血の気が引いた。


倒れたままピクリとも動かない六花の身体からは真っ赤な血が流れ出していて、昨日俺があげた真っ白なマフラーにはみるみる赤が染み込んでいっている。


それはまるでテレビに映し出される映像の様に現実味がなくて、それなのにドクドクと大きな音を立てる鼓動にゴクリと唾を飲み込んだ。


「──────六花、」


こういう時動かさない方がいいとか早く救急車を呼ぶべきだとか、そういう事は頭の中からすっかり抜け落ちてしまって、倒れた六花の上半身を抱える様に抱き上げて強く抱きしめた。


「六花、⋯六花、六花っ」


震える声はまるで涙声で。

流れ続ける真っ赤な血にパニックを起こしていた。


「⋯っ六花、おい、六花、六花っ!」



「────────六花っ⋯!」


この事故を目撃していたどこかの誰かが救急車を呼んでくれたらしい。
遠くの方から段々と近づいてくるそのサイレンの音。

救急隊員が六花を運んでいくまで俺はずっと六花の名前を呼び続けていた。