大切な女の子だった。
花が咲いたみたいに笑うその笑顔を守りたいと思っていた。

それなのに現実は想像を遥かに超える残酷さなのだと、俺はあの日初めて知ったんだ。




-有馬 千冬side-




小さい頃に出会い、家族ぐるみの付き合いもある六花とは幼なじみとして過ごした。

自分勝手なところのある生意気な子どもだった俺と優しくて大人しくてそれなのにたまに頑固な一面のある六花は、いつだって一緒にいた。

小学校に入学する前もした後も、他の友達が出来ても、結局は二人で過ごす時間が一番長くて、きっとお互いを一番理解しているのは自分たちだって確信出来るくらいには俺たちは同じ時間を過ごしてきた。


言いたい事をすぐに口に出してしまう俺と誰よりも優しくて遠慮がちな六花は性格的には正反対で、時にぶつかって喧嘩する事だってザラにあったけど涙を必死に堪えている姿にとことん弱い俺が「ごめん」と謝って仲直りをしてきた。

結局俺は六花に弱いんだって、子どもながらに思ったりもした。

そうやって過ごしてきた時間の中で恋心が生まれるのは何の不思議でもなかった。

六花を好きな自分に何の疑問も持たなかった。

キッカケすら思い出せないほど自然に、導かれる様に俺は六花を好きになっていたのだと思う。


――

中学に上がり周りが恋愛にうつつを抜かしている中で俺もその一員だった。

誰に好意を寄せられても、告白をされても、六花しか見ていなかった。


友達と楽しそうに話しながら笑うその姿も、俺の前で見せるくだけた雰囲気も、「千冬」と呼ぶその声も、俺が名前を呼ぶと嬉しそうに「どうしたの」と微笑むその表情も全てが愛おしかった。

この頃の俺はどうしようもなく、浮かれていた。

六花を世界で一番好きなのは自分で、六花のその笑顔も俺が守れるって思っていた。
そしてまた六花も俺の事を好きでいてくれているのだと、馬鹿みたいに浮かれていた。


浮かれて、いた。

それは俺たちは両思いだっていう、そういう事じゃなくて、そんな限定的な事ではなくて、

信じて疑わなかったんだ。

俺たちはこの先もずっと一緒で、時には喧嘩をしながら笑い合いながら過ごしていくんだって。

春にはのんびり花見でもして毎年夏祭りに二人で出掛けて、秋には舞い落ちる葉を眺めて「冬がくるね」って話して、冬には二人の誕生日を祝いっこして。

六花が俺の名前を呼んで俺が六花の名前を呼ぶ。


六花の名前を呼ぶ俺の声が六花にいつまでも届くと
──────。


俺たちはこの先も何も変わらないんだと、思っていたんだ。

この毎日が、日常が日常ではなくなってしまうだなんて、夢にも思わなかった。

悪夢の様なあの日までは。


――

中学二年の冬。

この頃俺はある決意を固めていた。

来年の冬、受験が終わって二月に六花の15歳の誕生日を迎えたら告白しようって。

気の早すぎるそれに自分でも呆れて笑ってしまう程だったけれど、この時の俺は一年後にそういう未来が来ると信じていた。