透明を編む 【完結】

横断歩道には千冬と先生しかいなくて、先生は千冬の顔までは知らないからそのまますれ違っていく。

一方の千冬は真っ直ぐわたしを見てきたと思ったらわたしの横を通る直前で目を逸らして無言で通り過ぎようとした。

その仕草に、態度に、どこにぶつけていいのか分からない焦りが溢れていく。


「千冬っ…!」


引き止める様に両手で千冬の腕を掴んだわたしを煩わしそうに見下ろす千冬の表情はビックリするくらい冷たくて、嗚呼、この間の事は夢でもなんでもなく現実だったんだって、分かりきっていた事なのに心臓がギュッと縮んだ。


「ち、ちふゆ、」


今までだって千冬に避けられたり冷たい態度を取られたりしていたけれど、感じる冷たさは今までとはどこか違って、全身で千冬がわたしを拒絶している事がヒシヒシと伝わってくる。

それでも、もう二度と戻らないなら。

二度と今を過ごす事が出来ないのなら、少しだって無駄な時間はない。

千冬とちゃんと話がしたい。

千冬が思ってる事、思ってきた事、それがたとえわたしにとって傷付くものだったとしても、聞きたい。


「ねぇ、千冬っ⋯。ちゃんと話してくれないと分かんないよ」

「(⋯⋯)」

「教えてくれないと分からない。だから教えて欲しいの。千冬が⋯、千冬が、今、何を思ってるのか」

「(関わりたくないって言っただろ)」

「わたしは千冬とこんな風になってるの嫌だよ」

「(⋯⋯そういうのがウザいんだよ)」

「千冬⋯、」

「(関わりたくねぇって、忘れたいって言ったよな?)」

「でもっ⋯、」

「(六花といると辛いんだよ)」

「⋯⋯え、」


このままじゃ嫌だと腕を掴む力を強めたわたしが見たのは、苦しそうな千冬の顔で。

今にも泣き出しそうな瞳でわたしを見下ろす千冬の声は聞こえなかったけど震えている気がした。