透明を編む 【完結】

今日の一日だって、一分だって、一秒だって。

もう二度と訪れる事のない時間だ。

千冬と見た花火も、千冬と過ごしてきた時間も、今は全てが過去の事だ。

思い出だ。

だけど今の空も、今日も、すぐに思い出に変わる。

今日はもう戻ってこないし、たった一秒だったとしても時間は巻き戻す事など不可能だ。


⋯⋯そう考えたら何だか、こうして立ち止まっている時間が凄く勿体ない気がした。

もう二度と戻れないこの瞬間をただウジウジして過ごしているなんてとても勿体ない。

そんな時間があるならもっと出来る事があるはず。


千冬がわたしを遠ざけたかったとしても、忘れたかったとしても、わたしはまだその理由を聞いてない。

千冬がどういう事を思って、感じて、ああ言ったのかまだ全然理解出来ていない。


こういう所が執拗くてウザったいんだろうなって分かっているけれど、やっぱりこのままなんて嫌だ。

千冬の気持ちをわたしは考えられていないのかもしれないけれど、それでもやっぱり理由が知りたい。


ある日突然、急にわたしを避けた理由を。


解放してくれって、忘れたいって、どういう事なのか。わたしは千冬の本心を教えて欲しい。


そんな事を思っている間にあっという間に夜の帳が降りて、日没を迎えた空からは太陽の光である暖色は消えていた。


「(じゃあ、そろそろ)」


先生が軽く手を上げて青信号を渡っていく。

その背中越しに、こちらに向かって横断歩道を歩いてくる千冬と目が合った。