それからあっという間に秋が過ぎ去って、わたしの好きな季節がやってきた。

千冬とはあれから教室で顔を合わせてもお互いがすぐに目を逸らす様になって、たった一言でも言葉を交わす事もなくなっていた。


解放してくれ、忘れたい、関わるな。

そう言われてもへこたれない程強い精神を持ち合わせていないわたしは、心の中だけに千冬への想いを抱えたまま毎日を過ごしている。


授業中、授業に集中出来ないくらい隣の千冬に意識が向いてしまい、千冬が友達と話をしているだけでどうしようもない焦燥感に駆られる。

角野さんと楽しそうに話しているところを見ては、苦しい程の嫉妬にまみれてそんな自分が嫌になる。

遠くで千冬と角野さんが話していたり、口元が見えなかったり、どんな会話を交わしているのか分からない時は嫌な想像ばかりが膨らんでお腹の奥の方からドロドロとした黒いものが喉へと湧き上がってくる。


もしかしたら二人は両思いかもしれない。
もう付き合っているかもしれない。

千冬がわたしを避けた理由は聴力の事ではなくて、わたしの好意が丸わかりでそれがただ単に迷惑だったからなのかもしれない。


嫌な想像なんてしなければいいのに、頭ではそう分かっているのに、どういう訳かわたしの脳はいつもいつも嫌な想像ばかりを膨らませてしまう。