透明を編む 【完結】


「(この世の中には、六花ちゃんみたいに何かしらの障害やハンデを背負っている人がいて、その人たちをサポートしたいって思ってる人も確かにいる)」

「はい⋯」

「(でもその気持ちは時に純粋ではない事もある。そこにはさっき言った通り、エゴだったり、自分に酔っていたり、自分自身を認める為に障害やハンデを負った立場の人に手を差し伸べようって人もいる)」

「⋯⋯」

「(一方的な同情心で優しくしたり、反対に揶揄したりする人もいる)」

「⋯⋯はい」

「(色んな人がいるこの世界で、俺が思うに彼は⋯千冬くんは、きっと、六花ちゃんの事を受け入れられないんじゃなくて受け入れたくないんじゃないかな)」

「⋯⋯受け入れたくない?」

「(それは六花ちゃんの聴力に対するものじゃなくて、六花ちゃんが自分に近づく事を受け入れたくないというか⋯)」


それは=<イコール>聴力を失ったわたしと距離を置きたいという事ではないんだろうか。

受け入れられないと、受け入れたくない。

似ているようでその二つは全くの別物なのだとなんとなく、分かる気がするけれど。

でも、どちらだとしても千冬はもうわたしと関わりたくはないのだと思う。


「忘れたいって、言われたんです⋯」

「(忘れる?)」

「解放してくれって、顔を見る事すら嫌だって」

「(⋯⋯)」

「今のわたしとは関わりたくないそうです。⋯⋯それもそうだよなって、思うんですけど」


幼なじみだろうと、今のわたしはきっと千冬にとって面倒で迷惑な存在で。

その上わたしがまた昔みたいに戻りたいだとか言ってくっつき回っていたらそりゃあ怒るよなって、冷静に考えればすぐに分かる事だった。


同性の友達とも違って、事故の後に出会った先生とも違う。

家族同然で一番近くにいたからこそ、受け入れたくないのかもしれない。


千冬にだって友達がいて、もしかしたら好きな人もいるかもしれない。わたしの存在は邪魔なのかもしれない。


「幼なじみだからってずっと一緒にいなきゃいけないなんて事ないですもんね」

「(六花ちゃん⋯)」

「わたしが昔みたいに戻りたいって願ったり、千冬の事が好きなままでいる事って、ずっと千冬に重荷を背負わせてるのと同じ、ですよね」


カーテンを閉めた窓の向こうでは雨が降っていたらしい。

静かに降りしきる雨はまるでわたしの心にまで侵食してくる様に、数日間降やむ事はなかった。