千冬と知り合ったのは小学校に上がる前のことだった。
一般家庭のわたしの家と、大きな会社の息子である千冬。
一見接点や知り合う機会は無さそうに思えるけれど千冬のご両親は出来るだけ一般的な環境で千冬を育てたいと近所の公園に遊びに来ていたりした。
そこで一緒に遊んだりしている内にわたしのお母さんと千冬のお母さんが意気投合して家族ぐるみの付き合いとなったのだ。
一般的な環境といっても千冬のお家は世界的に知られている大会社だし、大豪邸。
だけど千冬のご両親はとても優しくて、気さくで、わたしもとても良くしてもらってる。
有名私立校に通う選択肢もあるはずなのに、千冬は昔から堅苦しかったり誰かに縛られたりする事が大嫌いで、小学校の頃から普通の公立校に通っていた。ご両親も一般的な感覚を身につけさせたいと、千冬の意志を尊重して。
だから学区が同じわたしと千冬は小中と同じ学校に通っていて、世間一般でいう幼なじみと言われる関係だった。
一番近くにいる幼なじみの男の子。
わたしが千冬を好きになったのは半ば必然だったのかもしれない。
千冬はわかり易く優しいわけでもないし、たまに意地悪だけど温かい男の子だった。
だけど───、わたしの聴力がなくなってから少しして彼はわたしを避けるようになった。
冷たい言葉を浴びせ、そっけない態度を取るようになった。
仲の良かったわたし達に途端に距離が出来てしまった。
高校だって相談したわけでも約束したわけでもなくたまたま同じ志望校になっただけ。
一番近くにいたはずなのに、わたしが聴力を失った中二の冬からわたしと千冬はまともに話をしていない───────。



