「あの、海人先生に聞きたい事があるんです」


学校を休むという事はただでさえ必死にならないとついていけない授業にも欠席をするという事で、誰とも会いたくはなかったけれどこの一週間海人先生には通常通り授業をお願いしていた。

今日の授業を終えて先生が帰り支度をしているのを見ながら、ずっと考えていた事を口にする。


「(聞きたいこと?)」

「はい⋯。あの⋯、」


だけど、どう切り出せばいいのか分からずに口を開けたり閉じたりを繰り返してしまう。

段々と俯き気味になっている事にも気付かずにモヤモヤとしていれば、狭くなった視界でヒラヒラとする海人先生の手。その手の行く先を辿るように視線を上げれば先生は人さし指を立てて左右に振った。


“どうしたの?”


柔らかく微笑む先生にじゅわっと目頭が熱くなる。

この人はこんな風に笑ってくれるのに⋯って。

先生と千冬を比べてとても悲しくなった。


「(ゆっくりでいいから、話してごらん)」

「⋯っ」

「(大丈夫)」


その言葉に頷いてゆっくりと口を動かした。


「こんな事を先生に聞くのは間違ってるのかもしれません。⋯でも、知りたくて⋯」

「(うん)」

「先生はどうしてわたしに優しくしてくれるんですか⋯?優しくしてくれるのはそれが、わたしが聴覚障害者だからですか?」

「(⋯⋯)」

「そもそもどうして福祉の仕事に就きたいと思ったんですか⋯?」

「(⋯⋯六花ちゃん、それは、)」

「全員が先生みたいな人ならよかったのにっ⋯」

「(⋯⋯)」

「千冬が先生みたいな人だったら今もわたしの隣にいてくれたのかなっ⋯?なんで、どうして分かってくれないの⋯?って事ばっか考えちゃって、⋯なんで、わたしは聞こえないんだろうっ⋯」


先生の言葉を遮って吐き出した言葉は涙と混じって震えていた。

さらけ出した言葉はあまりにも自己中心的で、こんな事言われてもただ先生を困らせてしまうだけなのに止まらなかった。

だって、本心だったから。

千冬が先生みたいな人だったら今でもわたしの隣にいてくれたのかなって。


──────そんな最低なことを思っていた。