その日から一週間学校を休んだ。

それは体調を崩したとかそういうのじゃなくて、ただ行きたくなかっただけ。人と⋯⋯千冬と会う事が怖くて部屋に閉じこもった。

暖房に暖められた部屋の中から窓を打ち付ける雨粒に目を遣る。

物寂しく振る雨はまるでわたしの今の気持ちを代弁しているかの様だった。


冷たく、寂しく。

予報によれば今朝から明日の未明に掛けてずっと雨が降るらしい。


雨粒が窓に当たる音ってどんなだったっけ。

雨の降る音ってどんな音をしていたんだろう。

ポツポツとかザーザーとかオノマトペで表す事は出来ても、それは本物じゃない。

わたしが聞いていた雨の音はそれじゃない。


「忘れたら終わりじゃん、もう⋯」


もう二度と聞くことの出来ない音という存在。

わたしが忘れたら永遠に消えてしまう。

お母さんやお父さんの声も、千冬の声も。


聞こえないことを受け入れるのは凄く難しかった。

聞こえない自分を認めるのはとても苦しかった。

わたしの前で涙を見せないお父さんと常に支えになってくれるお母さんを見ているのだって辛かった。


ごめんねって。何度も何度も思って、何度も何度も自分自身に絶望して、未来が怖くて、何の音もしない毎日がたまらなく恐ろしくて。


それでもわたしが聞こえない自分を受けいれられたのは千冬がいたからだ。

毎日お見舞いに来てくれて、聞こえないわたしに一生懸命紙に文字を書いて伝えようとしてくれて。

千冬がいたからわたしは聴覚を失った自分を受け入れようって思えたのに⋯⋯。


千冬に避けられても、嫌われても、わたしが一番辛かった時に傍にいてくれた千冬にいつだって助けられてきたんだ。

千冬がわたしを受け入れてくれなくてもいつかは⋯って。耳の聞こえないわたしを受け入れて欲しいって思っていた。