「(ねぇ、喋ってみてよ)」
「⋯⋯」
「(しゃ、べ、っ、て。わかる?)」
彼にその気がない事を理解しているはずなのに心のどこかで馬鹿にされているんじゃないかって。
ふっと後輩に言われた「喋り方が変」という言葉が蘇り、声を発せない。
事故に遭ってほとんどの聴力を失って、絶望した。それでもなんとか前を向かなくちゃって、そう思って今日までを過ごしてきた。
今だって音を失った喪失感が皆無なわけじゃない。
それにあの頃のように全てに絶望しているわけじゃない。
だけど、時々こういう風に、物凄く、恐ろしくなる。
目の前の人達が怖くなって、彼らとわたしは違うんだって目の前に一線が引かれているのが見える。
普通の人と違うわたしは馬鹿にされて揶揄われるか可哀想だと同情されるかの二択しかないのだと、そう考えてしまう。
一線を引いているのはどちらなのか。
もしかしたらわたしの方かもしれない。
それでも、怖い。
「(なあ~、さっきは喋ってたじゃん、俺にも喋ってみせてよ)」
そこに悪意がない方が時にこんなにも恐ろしく感じるのだと、知った。
千冬のことなんて見つけるんじゃなかった。
目なんて合わなければよかった。
角野さんに嫉妬なんかするからこうなったんだって数分前の自分を恥じて後悔した。
自分が恥ずかしくて堪らない。
彼と違う自分が。
角野さんと違う自分が。
──────千冬とは違う自分が恥ずかしくて。
「⋯⋯っ」
何も言えずに俯いたわたしの手に骨ばった手が重ねられて。その手は冷たいのに、何故かわたしには温かく感じた。
ビックリしてすぐ隣を見上げればそこにた千冬の顔があって、その冷たい視線は鋭く友達であろう彼を捉えている。
「(悪ぃけど、そういうノリ本当に笑えねぇから)」
「(⋯は、)」
「(コイツが嫌がってんの見てわかんねぇ?どっか消えろよ)」
「(は、っおい!千冬っ…!)」
手を握ってきた本人、千冬はそう言い終えるとギュッと一度わたしの手を強く握り締め、“消えろ”と言ったくせにわたしの手を引いて歩き出した。
引っ張られる様に彼らに背を向ける間際、彼と角野さんが驚いた様に焦っているのが見えたけれど千冬がどんどんと歩みを進めてしまうからすぐに二人の姿は人混みの奥に消えていってしまった。



