透明を編む 【完結】

目が合って、数秒。

千冬の瞳が訝しそうに細まって、不機嫌を隠そうともしない千冬がスタスタとわたしの傍まで歩いてくる。

まさか千冬がこっちに来るなんて予想外で、どうしようどうしようって焦っている間にたかが数メートルの距離はあっという間に埋まってしまっていた。


「(何してんの?)」

「⋯⋯え?」

「(こんな時間に出歩かねぇじゃん、いつもは)」


そう言った千冬が面倒そうにため息を吐いた事を大きく動いた肩を見て察する。

こんな時間ってまだ二十時なんだけど⋯、でも確かに普段わたしはあまり夜外に出ていく事はない。
出ても家の近くのコンビニとか、誰かと一緒な事が多い。だから千冬の指摘は変ではないけど、それを千冬に咎められる筋合いはない。


「買い物しようと思って」

「(なら早く帰れよ、小母さん達心配するんじゃねえの)」

「お母さん達には連絡してあるし⋯」

「(買い物終わったならさっさと帰れよ。ここら辺、もう少し遅い時間になるとガラの悪い連中も集まってくるから)」


そう言っている千冬の瞳はさっきからわたしを捉えていない。他のどこか違うところを見ていて、故意的にわたしと目を合わせないんだって気付いた。


そういう態度になんだか無性に腹が立って、帰れ帰れ言うのはわたしが邪魔だからなんじゃないか、友達⋯角野さんといる時間をわたしなんかに邪魔されたくないからなんじゃないかって、変な憶測ばかりが浮かんできて。

千冬がそういう意味で言ったんじゃない事も、少しは心配してくれている事もちゃんと分かっているはずなのに、醜い嫉妬と弱い気持ちが心を覆い尽くしていく。


「千冬には⋯、関係ないじゃん」

「(あ?)」

「わたしが遅くまで遊んでいようが、帰ろうが帰らなかろうが、千冬には⋯、千冬には関係ないじゃんっ」

「(⋯⋯)」

「避けるくせに、今だって目すら合わせないくせに、⋯⋯言っておくけど雪乃ちゃんだって千冬の帰りが遅いって心配してるから!だから、そんな態度の千冬に何かを言われる筋合いなんてないっ⋯」


雪乃ちゃん、ごめんなさい。

わたし、千冬に酷いこと言ってる。

呆れないであげてって意味は、諦めないでって意味だったかもしれないのにわたし、諦めないどころか大切なものを壊しかけてるかもしれない。