透明を編む 【完結】

その後もうろちょろ色々なお店を見て回ったものの、結局何も買わないまま商業施設を出る。

すっかり夜の帳が降りて、夜空には糠星とまでは言えずもいくつかの星が浮かんでいた。

駅の方へと歩いていると大きなメイン通りの入口にある、よく待ち合わせの場所などに使われる広場によく知る顔を見つけた。


姿を見ただけで苦しくなって、胸がぎゅっと痛んで。それでいて温かくなる存在はたった一人だけ。
たった一人、千冬しか知らない。


千冬は数人の男女と何やら話していて、駅へと向かうにはその前を通らなくてならなかった。

数人の男女の中には角野さんも居て、それだけで冷たくなっていく心に嫌気がさす。

どうやったってわたしは千冬が好きで諦められない事をさっき思い知った。

だけどそれはわたしの一方的な想いな事も痛い程分かっている。


顔を合わせたくなかった。

また、目を逸らされる事が怖かった。

拒絶される事が、こんなわたしを受け入れてもらえない事が、怖かった。


それなのに偶然というのはとても意地悪だ。


友達と話していた千冬が不意に顔を上げて、視線が交わる。

たった数メートルの距離で見間違いなんて起こるはずが無いのに、千冬がわたしに気付く事なく居てくれたらいいのにって願わずにはいられなかった。

目を逸らされる事に傷付くくせに、無視される事が苦しいくせに、顔を合わせる事が怖かったんだ。